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□『time after time』
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「うぅっ、ね‥むい…」



リビングのテーブルで春歌は黙々と五線譜と睨めっこを続け、集中力を切らす事を知らない。
時々、目線を逸らさずにマグに手を伸ばして一口飲んで…、その繰り返し。
そういえば朝起きてからまだ何も食べていないことに気付いた。あぁだから頭が働かないのか…なんて納得してみたり。



「あいつ、何飲んでるんだろ…」



息を吸えばチョコレートの、甘い甘い香りが鼻孔を擽った。あぁココアか…ふらりと近寄る翔に春歌は気付く様子もなくただただひたすらに五線譜と戦い続ける。
気付かないことに少し悔しさを覚えるけれど、いつか春歌が言っていた。一番は翔くんです…と。



「あ、翔くん、…あと少しで区切りが付きますから。そしたらご飯作りますね」



「なぁ春歌ぁ…、」



「はぁーい‥」



「我慢するからさ…キスだけ、させろ」



「キ、えっ、ぁ…ん、んぅ‥っ//」



呼吸を貪った。
時々吸い上げて一瞬唇を離すことで酸素を送り込んで、与えた酸素を再び奪う。
小さな舌を絡め取って、溢れた唾液は落ちる前に舐めて舐めて…
本の数秒だったのかもしれないし、気の遠くなる様な時間だったのかもしれない。
時間の感覚が抜けきった、そんな気分。



「な…っ、はぁ‥」



「何でキスしたかって?」


「っ…」


「さっきココア飲んでただろ」


「うん‥」


「キスしたら、甘そうだって思ったのと…」



息苦しさで涙を浮かべた春歌の手を伸ばして優しく、頬を撫でて涙が溢れる前に指先で掬う。



「糖分、摂取出来るんじゃないかって思ってさ…そんだけ。」



「と、糖分っ//」



「取り敢えずまだ朝飯は大丈夫だからさ、納得するまで作業してていいからな」



「え…翔く、…あ、」



もう一休みしてるから、終わったら声掛けろよな…そう言い残して寝室へと戻ってしまった。
唖然とした春歌の手からするりとペンが落ち、くるくると弧を描いて小気味良い音を立てて床に落下。



「も、あんな…事言われて、あんなキスされたら…も、無理だよぉ///」




顔を真っ赤にさせて今にも泣きそうになりながら春歌はへなへなと机に項垂れた。先程までの集中力は何処へやら…
次にすることはただひとつ。キッチンへ向かい、朝食を作ること。


それだけしか考えられなかった。



fine.
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