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□『velvet touch』
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いつもはぱたぱたと足音を立てて出迎えに来るのに今日に限ってはそれがなかった。遠慮をする仲ではないので砂月はリビングへと向かったが、若草色のソファーで丸まって眠る春歌の姿。腕には那月が春歌にプレゼントした黄色い生き物のぬいぐるみ。



「…様になってるというか、」


でもなんだ、この苛々は…


「ん、んぅ…」


「寝るならベッド行けって何度も言ってるだろうが…」


「ふにゅ…」


鼻を痛くない程度に詰まめば息苦しさで春歌が目を覚ました。黄色い生き物に頬擦りをしている辺り、まだ夢と現実を行ったり来たり…そんな状態だろう。


「おい、起きろ」


「ふぁい、」


「体痛めるだろうが、寝るならベッド行けって何回言わせれば気が済むんだ」


「あー…、おかえりなさい…さつきく」


「あぁ、ただいま…」


「すみません、さつきくんのこと待ってようと思ったんですが…睡魔に負けて、」


「ベッド、行くぞ…」


春歌が顔を押し付けていたぬいぐるみを片手で掴んで向こう見ずに放り投げれば、フローリングにぽすんを立てて落ちる。驚いて見上げれば眉間に皺を寄せた砂月…
両手を差し出せばひょいと抱き上げられてそのまま視界が流れて行った。
向かったのは寝室。



「さ…つきく?」


「抱き締めるならこっちにしとけ。」


「……、」


「何笑ってんだよ」


「わ、笑ってなんか…」


反論したくて肩口に埋めていた顔を上げれば、意地の悪そうな笑みを浮かべた砂月。名前を呼び切る前に唇に蓋をされて…そのままベッドへと雪崩れ込んだ。噛み付く様な荒々しいキス、胸をキュンと締め付ける様な甘いキス…



「その腕で抱き締めていいのは、俺だけだ…返事、」


「…ふぁい//」


「なんだよその締まりのない返事と顔は…」


「だ、だって、ですね…」


「言わなくても分かるから言わないでいい。早く寝ろ…」


「…あの、」



頭の下に腕を差し込まれて、空いた腕で抱き寄せられて…春歌が足を絡めれば呆れの含まれた溜め息が頭上から降ってきた。



「一緒に寝てやるから、」


「砂月くん、上から目線です…」



額にはおやすみのキスを1っ、
唇には愛してるのキスを1っ。



「俺なりに甘やかしてやってんだ、分かれよばーか」



fine.
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