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□『sherry flip』
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「あ、藍くんおかえりなさ」
ただいまも言わず、ドアを開けるなり凄い剣幕で藍が歩み寄ってきた。何事かと狼狽える春歌は何とかして名前だけでも呼ぼうとしたと同時に体がふわりと浮き上がった。そのせいで更に混乱…
「あぁあああ藍くんっっ!!」
「本当に、本っっっとうにバカだよね、キミ」
「そ、そんな…」
「熱あるの気付いてる?」
「…?」
「僕が気付かないとでも思った?」
「…??」
「僕の目は赤外線センサーによる非接触温度計搭載。まぁハルカの事ならなくても分かるけど…」
「あ、あの、どちらへ…?」
「…落とすよ?」
「すみませんんっ!!!」
「冗談だって」
寝室に着いて即ベッド。ボスンと下ろされて間髪を入れずに覆い被さられて身動き出来ず。そっと下ろされない所からして怒っているんだな…なんて呑気なことを考えていたら顎を掴まれて目と目がかち合った。これは相当…
「…怒ってます、よね」
「怒ってない」
「でも、」
「ただ、感情がぐちゃぐちゃしてて若干処理が追い付いていないだけ。でも問題ない」
君といると良くあることだし、そう付け加えて頬に触れようと伸びていた最中の春歌の手を取って手の甲にキス。寝室にリップ音が綺麗弾けて消えて、キスのカウントが2桁に到達する頃には手の甲ではなく唇と唇。押し返し始めた手にやんわりと指を絡めて皺のないシーツへと押し沈める。
「藍…く、」
「このままキス、し続けて強制的に酸欠状態にして寝かせてあげようか?」
「っは…、も、既に…手遅れ、です」
「そ、なら良かった」
「良かっ…ちょっ、あ、藍くんっ!!」
「聞き分けが良くてよかったってこと。」
「意地悪…です」
君だけにね、呟きながら額を一撫で。覆い被さるのを止めてベッド脇に座り、手を握って再度手の甲に唇を押し当てる。こそばゆさから逃げる手を逃がさないとばかりに引き寄せてキスを継続…
「寝ずの看病してあげる。こういう時、便利だよね、僕って」
「…だったら、」
「だったら?」
「一緒に、寝てください…」
「………、」
「聞かなかったことに…」
「すると思う‥?」
ギシリとベッドのスプリングが切ない悲鳴を上げたと思えば毛布でぐるぐる巻き。その上から身動きが取れなくなる位にギュッ…名前を呼ぼうにも上手く出来ない位。
「普段からそうやって甘えてくれればいいのに…」
「…?」
「何でもない。」
fine.