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□『el toro』
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ガシャン…
重いものが床に落ちた音。故意ではない、多分。行き場のない手をさ迷わせていたらサイドボードに置いてあった時計に触れてしまってそのまま落下。
いつもの彼なら、苦笑いをして少しだけ咎めて、仕方がないですね…なんて言いながら拾い上げるのに、今、そんな余裕はないらしい。
「言うことを聞かないのは…この手、ですか?」
「ちがっ、ちがう…ぁ、あ」
「冷たいシーツを握り締めたり、」
「っ‥や、ぁ、とき‥や…くっ//」
「さ迷わせて空を切るのなら…、私の背中に回して下さいと何度も‥言ったでしょう」
奥の奥まで。背中が弓なりになったことで自ら最奥へ。隙間のない身体と身体、ぴたりとくっついて、それから緩く緩く円を描く様に掻き回されて、ずくりと子宮が疼き、ぞくりと鳥肌が立った。
「傷付けることが不安なんですよね、君は…」
「だってときや‥く、」
「アイドルですがその前に君の恋人です。…気を遣って貰うのは嬉しいけれど、こういう時、君のその強い自制心は不要ですよ」
トキヤはそっと春歌の手を取って指先一本一本にキスし始める。艶かしく、けれども慈しむ様に。繋がった所からも粘着質な音は止まず、指先も舐めたり吸ったり…引っ込めようとすれば手首を掴んで元の位置。
「春歌の爪は、綺麗に短く切り揃えてありますから…爪を立てられても痛くないんですよ」
「で…も、」
「他に何か…」
「止められなく…なっちゃいます」
「それはいけないことですか?」
「わかりま‥せん」
唇に軽いキスを一つ。掴んでいた手首をやんわりと引いて背中へと回させて、手が引っ込んだり離れないことに満足してからにっこり、溶けた様に笑んでそれからまたキス。
「もっと欲しがってと言ったら…?」
「困ったり、呆れたり‥しませんか?」
「いえ、寧ろその可愛い口に…もっと欲しいと言わせたくて仕方がありません」
「…、ほんと‥ですか?」
「君に嘘は吐きません」
目を軽く見開いてハッと息を飲む音が聞こえた。細く華奢な腕に力が入って、春歌はトキヤを自分の方へと抱き寄せるがその行為のせいで奥の奥…思わず嬌声を漏らすが、今は恥ずかしいとか言っていられない。
「ん、んぅ‥」
「…ん、急に…どうしたんです?」
「トキヤくんは、嘘‥吐かないなって納得しちゃったので」
「、ありがとうございます」
体内に蓄積して行き場を失った熱を吐息を吐き出すことで少しでも外に出そうと、肺に溜め込んだ酸素をほぅと吐き出した。ただの気休めにしかならないのは分かっているけれど、しないよりは増しだ。
「明日は、新しい時計を買いに…行きましょうか」
「…午後から、で‥いいですか?」
「えぇ、元よりそのつもりです。安心してください」
手加減するつもりは毛頭ありませんから…その言葉を聞いてしまえば、春歌はただただ指先を絡め繋いでトキヤを抱き寄せるしかなかった。
fine.