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□『ce'stlavie』
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「た、だだいま‥です」
「……………、」
「藍、くん?」
「今、何時だと思ってるの?」
「えっと、0時ちょっとです」
「正確には『春歌が駅に着いたって連絡をくれてから帰宅時間を逆算、23:40頃には玄関に到着している筈なのに20分オーバーして日付替わって0:01に差し掛かる所』だよ」
「うっ‥」
「何、してたの?」
「すみません…」
「僕が今聞きたいのは謝罪の言葉じゃなくて、君がどこで何をしていたのかだよ。言えないようなことしてたの?」
容赦なく飛んでくる質問の数々。反論は許さない。靴を脱ぐ暇さえ与えてくれず、春歌の背中には無機質な玄関。口ごもっていれば早く言ってと言わんばかりに両頬脇に突かれた両手。こちらを見るマリンブルーの瞳には苛立ちの色、どくりと心臓が嫌な音を立て始めた。
「コンビニに寄り道を‥」
「何かを買った様子はないけど」
「その…、雑誌のコーナーで」
「立ち読みでもしてたの?」
「藍くんが表紙の‥」
「あぁ、あれ」
「そのままじっくり読んでしまいまして…気付いたらこんな時間に」
「ばか、」
「すみません‥」
「わかった。君は目の前の僕よりも、紙面の僕の方がいいんだね。」
ふいと外方を向かれてしまった。若干頬が膨らんでいる様な…
「拗ねて」
「拗ねてないっ」
「す、すみませんっ」
「怒っている訳でも‥ない、けど」
「けど‥」
「ちょっと、いや、相当‥悔しい」
帰宅経路はいつもと変わりないんだし、歩く速さから今どの辺りを歩いているのだとかすぐ分かるし、迎えに行けたのに…
春歌の事を考えていたら上手く計算出来なかったというか、何というか。
「見詰めるなら本物の僕だけにして、」
「はい、」
「好きだとか触れたいとか言ったり思ったりするのも僕の前だけにして、」
「わかりました」
「それと‥」
「ふふっ//」
「何で笑うの‥」
「かわいいなって」
「カワイイのは君の方でしょ」
「すみません‥」
「全くだよ、本当カワイくて‥困る」
こつんと肩に額を寄せて大きな大きな溜め息を一つ。彼女の行動に一喜一憂して、頭をぐるぐるさせて…どうしたらいいのか分からなくなる時もあるけれど、心地がいいことには変わりない。
「あ‥」
「はい、」
「おかえり、」
「ただいまですっ」
fine.