6
□『arctic star』
1ページ/2ページ
〜♪
「うっ、藍く…あの、」
「なぁに?」
「ブラームスの子守唄、唄うの…は、ちょっと…あの、眠く‥なっちゃうので」
「それが目的だし。あ、ブラームス飽きちゃった?じゃあモーツァルトにしようか」
「素敵です‥、じゃなくてっ!!」
時刻は深夜二時を過ぎた所。
そろそろ休もうと言われてから既に時計の長針は半周した。痺れを切らした藍が何をし出したかと思えば春歌の向かいに座り、両腕で頬杖をしながらあの歌声で子守唄。春歌は正気ではいられない。冗談抜きで。寝ないならキッカケを作ればいい…恐らくそんな単純な考えだとは思うけれど、される側としては堪ったものではない。
引き寄せられる音色と大好きな歌声。作曲中の凄まじい集中力を削ぐのはあっという間だった。
「藍くんっ、も、寝ます‥」
「よしっ、ノルマ達成」
「うっ‥ずるいです、子守唄とか」
「だって、ハルカと一緒に休みたいし」
「っ、上目遣いしないで‥ください//ドキドキ‥しちゃいます」
「カワイイなぁ‥」
頬杖を止めて椅子を引いて立ち上がり、傍らに来て抱き締める。彼女の手からペンが落ちる音、それから背中に腕が回ったことを確認してからお姫様抱っこ。
「それじゃあお詫びに、リクエストを聞いてあげる」
「本当ですかっ」
「うん。ハルカが好きそうなのは大体調べて練習しておいたから、何でもいいよ」
「迷っちゃいます‥えっと、」
そうこう話をしている間にベッドへ到着。二人並んで眠る体勢。手と手はきゅっと絡め繋ぐのがいつものお約束…
「キラキラ星がいいです」
「また?」
「藍くんのキラキラ星、大好きなんです」
「それは嬉しいけど‥でもあれ唄うとハルカすぐ寝ちゃうんだもん。僕としてはもうちょっと」
「えっ、あ‥寝ちゃまずかったのでしょうか、いえ、でもあの歌声を聴いてしまったら…何と言いますか」
「まずくはないけど、先に寝られると置いていかれたみたいで…いや、なんでもないっ」
「じゃあ、今日から一緒に歌います」
せーので始まるキラキラ星。
3周目辺りで歌詞が途切れ途切れに、
4周目に入った頃にはかなり断片的に。
終る頃には言葉にならない言葉の羅列のみ。5周目の最初のフレーズだけ歌って音楽は止む。
緩んだ指先を逃がさない様にキュッと絡め、ほぅと一息。
「一緒に歌うって言ったのに‥」
「あい、く‥」
「なぁに?」
まぁでも、いつもなら1週目で寝ちゃうし…今日はよく頑張った方かな。うそつきでも何でも、かわいいなぁ…本当に。
「おやす‥、なさ、‥ぃ」
「うん、おやすみ。」
いい夢が見られますように、
そんな思いを込めて、額にキスを1っ。
fine.