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□『strawberry aldohl』
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「ハニー、そろそろ寝よう?」
「音符がですね」
「うん、」
「楽譜にされたいと、囁いてまして」
「うーん‥ねぇハニー、徹夜何日目?」
「2日目?」
「いいや、3日目」
首を傾げながら"そうでしたっけ"なんて可愛く言われて危うく絆され掛けたが首を左右に振ってから強行手段。握っていた彼女のペンを抜き取り、四方に散らばっていた五線譜を掻き集めて纏め上げる。
小さな悲鳴は聞かない、そんなの知らない。聞こえませんっ。
「ねぇハニー、」
「は、はい…」
「寂しがりやな俺を、独りにするつもり?」
「あ、いえ…そんなつもりは、」
「泣いちゃうかも‥」
「泣、え?」
「寂しくて泣いちゃうかも…」
「ダーリン、泣いちゃうんですか‥?」
「うん、」
「………、」
何を想像しているのか…急に両掌で顔を覆ったと思えばふるふると首を左右に振り始めた。名前を呼んでも反応なし、何かまずいことでも言ったかな…なんて思い返しても心当たりなし。
「ダーリンが、泣いちゃう…なんて//」
「うん?」
「か、可愛過ぎますっ!!」
「え‥」
「でも泣いちゃうのは困るので、大人しく寝ます」
「あ、は‥はい」
「私、ダーリンの涙には弱いんです」
それ、男性が女性にいうセリフじゃない?と突っ込んでみたけれど、本当のことなので‥と呆気なく話が終結してしまう。
「ダーリン、ベッド行きましょう?」
「抱き締めてもいいかな‥」
「いいですよ、私もギュッてされたいです」
「いや、今すぐ抱き締めたい、」
「へ?」
「ハニーが、可愛すぎて…ツラい」
「わ、私だって…ダーリンがいつも常に恰好良すぎて心中穏やかでなく‥つ、ツラいですよ?」
「あ、あともう一回さっきの言って欲しいかも…」
「…さっきの?」
抱き締められながらも首を傾げて記憶を遡るが思い当たる節がなく…少しだけ距離を空けられて目と目がばちんとぶつかって何となくそわそわ。
「ベッド行きましょうって‥」
「へ‥?」
「恥ずかしがりやのハニーからベッドへお誘いされるとかさ‥」
今夜眠れないかも‥
耳元でワザとらしく吐息混じりに囁けば面白い位硬直した体に思わず吹き笑ってしまった。いつもは逃げ出そうと身動ぎする彼女を抱き締めて離さないけれど、今日は敢えてパッと緩めて見たり…
いつもと違う反応に春歌の頭には大きなクエスチョンマーク。唇を軽く突き出し、眉を下げて…不貞腐れているのが可愛いななんて思っていたら、まさかの彼女からの抱擁。少しだけ、動揺した。心の中で。
「ハニー?」
「ギュッってしてくれるってさっき言ってました‥」
「ごめん、拗ねちゃった?」
「す、拗ねてなんかないですっ//」
「じゃあ…ハグして腕枕してキスしてあげるから、機嫌直してよ」
「2割増にしてくれたら、いいですよ」
「ハニーは相変わらず控え目というか…」
二倍でも三倍でも喜んで増やすのに…
抱き締めていた腕の力を緩め、そのまま横抱き。お姫様抱っこ。小さな悲鳴は聞こえたけれど、だからといって元の位置に戻すつもりは毛頭ない。
「っちょっ、ダーリンっ、レンさっ‥」
「いい子にしていれば、俺の声が大好きなハニーには子守唄唄ってあげる、」
「//っっ、ちっ、違います」
「何が?」
「声"も"好きなんですっ!!」
不意打ちのボディブローは会心の一撃。クリティカルヒット。彼女を腕から落とさなかったことを盛大に褒めて貰いたい位…
「あー‥も、だめ」
「えっ、な、何がですか」
「早く寝てもらいたいのに、でも寝かせたくないっていう葛藤」
「なっ!!!」
「冗談だって。でも、その寝不足が解消されたら…俺に付き合って?ね、約束」
ベッドに下ろしてからそっと額にキス…
「っだ、ダーリン、っさ‥さっきの」
「もし破ったら、泣いちゃうかも‥」
「それは困りますけど‥でも、えっと」
「そろそろ寝ようか、おやすみ」
針千本、飲みたくないよね?耳元で一言。何か言いた気な唇は容赦なく塞ぐまでだ。
fine.