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□『cnore peace』
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「好き、」
「好きだよ、大好き」
「…好き、」
「好き‥なんだ、君の事」
台本を手にしながら愛の告白の連続。役を理解したり、物語を解釈したり…
分かってはいるけれど、傍らのローテーブルで作業をする春歌にしてみれば落ち着かずにはいられない。
先程までは溢れる音と五線譜に書き込む筆の速さが追い付かない程メロディが溢れていたのに、今ではそわそわするばかりだ。
「なんだかしっくりこないな」
「ど、どこがですかっ!!」
「あ、聞いてたの?」
「聞こえますっ、嫌でも聞こえちゃいますっ!!」
「顔真っ赤だけど‥」
「だ、だって!!」
「だって、何?」
ソファーに台本が置かれた音、座っていた藍が立ち上がったスプリングの軋む音。
春歌の隣に腰を下ろし、手触りのよいラグを掌が優しく撫ぜる音。肩が触れれば春歌は遠慮がちではあるが、動ける範囲で逆へ逆へと体をずらしてずらして…
「好きだよ、」
「す、」
「大好き‥」
「だ、だい」
「違うな、」
「な、なにが、ちが‥」
「好きでも大好きでも、僕の心が抱く君への気持ちは表せないや、」
優しい声に振り向けば柔らかく笑む藍がいて、つられて春歌も笑んだ。
伸びてきた指先は頬をつつ‥と撫でてからそのまま下へ。下唇の真ん中辺りでぴたりと止まった。
「あい‥く、」
「愛してる」
「あ‥、い」
「こっちの方がしっくりくる」
唇に触れていた指を更に下へ、顎を持ち上げる。春歌が息を吸ったのを確認してから、そのまま唇を食んで吐息の共有。
長くもなく、荒くもなく、なんだか少し儀式染みたキス。
「愛してるよ、春歌」
二度目のキスは、泪の味。
好き、大好き、愛してる…
言葉だけじゃ胸の内は伝え切れないけれど、今伝え出来る事を君に伝えたい。
「私も、藍くんのこと‥」
息継ぎの合間に聞こえた声に瞼を上げれば、彼女は泣きながら笑っていた。言葉の続きが何なのか考えなくても分かったけれど、何だか聞くのが勿体無い…なんて理由で無理矢理にキスで言葉を飲み込んだ。
その言葉が、
身体の中で根付くように残ればいいのに…
fine.