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□『sinful summer』
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そっと鍵穴に鍵を差し込み、恐る恐るドアを手前に引いた…が、目の前には鋭い視線を注ぎながらこちらを睨む藍の姿。腕組みをしていた恰好はそのままに、凭れ掛かっていた壁から体を離し、混乱状態一歩手前の春歌の方へと向き直った。



「おかえり、随分と遅かったんだね‥」

「あ、あの、えっと…」

「行ってたんでしょ?テーマパークとのタイアップイベント」

「……、」

「何が欲しかったの?」

「藍くんがネコさんになった…、」

「うん、」

「スタンドPOPが‥」

「あれ、ゲームの景品だよね」

「は、はい‥」

「ハルカのことだから、ああいった手のものが上手いとは思えないんだけど‥」



顔には爽やかな笑みが浮かんでいるが、表情は明らかに笑ってはいない。次の質問は予想が付いている。


「いくら、使ったの?」

「黙秘しますっ!!」

「えっ、ちょっ即答、しかも黙秘‥なにそれ、そんな勝手が僕に通用すると思ってるの?」

「藍くんのスタンドPOPが欲しくて、〆切間近の楽曲を本気以上の力を出して仕上げた時よりもっと凄い頑張って心から楽しめたお値段は、"ぷらいすれす"なんですっ!!」


明らかに丸め込まれた感が否めない…
が、嬉しそうに話す彼女が可愛くて割とどうでもよくなってしまったり。それはそうとして、この胸の蟠りはなんなのか…


「分かった、恐らく10投以上はしてるよね。結果は…その表情を見れば分かる」

「うっ‥。あの、あの‥このですね、左手の猫の手をしてるポーズがですね、可愛くて可愛くて可愛くて…あぁもうなんと言ったらいいのでしょうか、どうしても欲しかったんですっ!!」

「じゃあ‥、今ここでそれ、やってあげる」

「へ?」


腕組みを解いてから左手を握り直す仕草を数度繰り返す。拳を作り、手首を柔らかく曲げる。それから首を軽く左に傾けてから一言‥


「―――‥にゃあ、」

「!!!!!!!!」

「‥違う?」

「(首を左右に振るしか出来ない)」

「じゃあなに、ハッキリ言わないとわから」

「可愛くて卒倒したいだけですっ!!」

「倒れるのは、困る‥」

「うぅぅ‥でも、でもっ!!」

「そうだ、一つだけ言いたいことがあるんだけど」


再度腕組み。至極残念そうな声が聞こえたのは気のせいにしておく…


「頑張るのはいいけど、僕に関して頑張る時は‥僕が目の前にいる時だけにして」

「それって、嫉」

「違うっ、全力で楽しんで頑張ってた君の事が見たかっただけっ!!」

「でも、それって」

「君の事が好きだから仕方がないの、分かった?」



半ば吐き捨てる様に言ってしまって、言った後にしまった…と思ったが、目の前の彼女は至極嬉しそうなので良しとする。


「あと、今度‥」

「はい」


慌てていたせいか、距離が縮まった事に気付くのが1テンポ遅れてしまった。はとして顔を上げれば目の前には藍がいて、はいと返事をする前に唇を啄まれる。んぅ‥と間抜けた声すら可愛くて、押し返すつもりで伸ばしてきた手を掴んでそのまま背中へと回させた。


「デート、」

「で、でででデート///」

「うん、デート‥しようね」



満面の笑みで言われた言葉に、春歌は首を縦に振るしかなかったのだった。



fine.
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