6
□『sunnygrace:EX3』
1ページ/2ページ
「ねぇイッチー、」
「……、」
「聞こえてるのに無視するとか止めてくれないかな」
「聞こえていますが、なんだか嫌な予感しかしないので敢えて無視を決め込んでいるだけです」
嫌な予感しかしないだなんて失礼だなぁ‥なんて大袈裟に反応しながらも手元は動いたまま。クローズ後の店内、片付けを終えてからカスタマーの居なくなった店内で過ごす時間。トキヤは1Fのカウンター前の席でいつもの如く文字の羅列を追い掛け、レンは何やら作業中。
「先程から一体何をしているんです?」
「新しいカスタマイズの実験」
「七海さんや私に被害が及ばない様にしてくださいね、」
「そんなことにはならないって、今回のは自信作。」
「タバスコを入れようとした前科があるので‥」
沈黙。
だってスパイスが入ってた方が美味しいかもしれないし。シナモンでいいのではと釘を刺されてしまった。再度沈黙。
「レディにそんな危険な物を渡すわけにはいかないからね、今回はちゃんとしたドリンクにした」
「また胸焼けを起こしそうなネーミングですか?」
「いや、結構まとも」
そう言いながら差し出したショートサイズのプラカップ。見た目はシーズンビバレッジのマンゴーフラペチーノ。
早速何かを言いたそうなトキヤをレンは自分の唇に人差し指を当てて先に制した。見た目は兎に角、物は試し。
「ティー抜きにして、ホワイトモカシロップ追加‥」
「奇抜だろ?」
「あなたらしいと言えばそうなりますが‥」
「特製白桃フラペチーノ」
「意外、ですね」
「意外?美味しいと思うけど‥」
「そうではなく、甘いドリンクのカスタマイズを考えるなんて意外だな‥と」
「だって彼女、苦いの‥飲めないし、」
「はいはい、そうですね…」
「イッチーが二つ返事って、明日は雨だね」
「お言葉ですが、レンが甘いドリンクのカスタマイズを考えている時点で明日は霰です」
ぴしゃりと言われてしまい、返す言葉が見当たらないレンは無言でストローを差し込んでそれを飲み始める。
「……」
「最近のあなたを見ていると、本当に面白くて退屈しませんね」
「なにそれ、」
「これでも一応は褒めているんですよ」
「そりゃどーも、」
完成したことですしそろそろ帰りましょう…そう言い終ると同時に分厚いハードカバーがぱたりと閉じられた。立ち上がれば椅子が鳴る音…が、レンは相変わらず。ストローを銜えたまま心にここに在らず状態…
「レン…?」
「甘酸っぱい‥」
「まぁ、そうですが‥裏メニューとして出すには全く問題ないかと」
「…、そう‥だね」
甘酸っぱいのは恋の方だ、
訂正する気はあったのに、いざとなったら恥ずかしくなって言葉の何もかもを無くしてしまったなんて言えない。
彼女に対して上手く言えないのは今に始まった事じゃないけれど…
「まさかイッチーにまで‥」
「…?」
「恋って、」
「はい、」
「色々な意味で怖い‥」
盛大なため息と共にレンはバーカウンターへと突っ伏したのだった。
fine.