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□『sunnygrace:EX4』
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テーブルに広がった五線譜達、その上に突っ伏す彼女。遠目から見ただけだけれど、困ったな、と思った。
その困ったには2種類の意味が含まれていて、また寝不足か、と、差し入れでドリンクを持って来たのに起こすか起こすまいか‥だ。


「黙って置いてもなぁ‥」


起きた時の反動でもしかしたら落としてしまうかもしれない、起きる頃には冷めているかもしれない…考えれば考えれる程思考の渦に足を取られて引き摺り込まれてしまう。店内は賑わっていて足音なんて掻き消されてしまうのに、レンは極力足音を立てないよう、突っ伏す春歌の傍らへと歩を進めたのだった。


「…………、」

「‥」

「あれ、」

「……、」

「寝てる‥んじゃないのか、‥って、な、泣いてる!!」

「あ、じんぐじ‥さ」

「お、俺何か間違ったことした?」

「?違います、レンさんは悪くないです‥私が、お子さまなだけで」


突っ伏したまま彼女が指差したのは見慣れたマグ。中身は黒い液体。


「あまりにも眠くて、それで‥一番苦いの下さいって言ったら、これで…」

「エスプレッソコンパナ‥」

「甘党の私には‥まだ、早かったみたい…です」

「早いというか‥、今日オーダーリクエストしたの誰?」

「綺麗な青髪の、女の子みたいに可愛い男の子…」

「…アイミーだ、」

「?」

「取り敢えずこれ、差し入れで持って来たから飲んで頑張ってっ!!」


突っ伏したままの春歌の頭を一撫でしてからレンは一目散に走って階下に下りて行き、バーカウンターの中にいる"綺麗な青髪の女の子みたいに可愛い男の子"の名前を少し強めに呼んでいた。


「アイミーっ!!」

「なにレン、そんな血相変えて」

「レディにエスプレッソコンパナ出したのアイミーだよねっ!!」

「一番苦いのって言ったから、その通りにしただけだけど‥何?僕何か悪いことした?」

「〜〜〜〜っっっっ、悪くはないっ、レディの要望通りにドリンク作っただけだから悪くはない‥んだけど、彼女にあれはまだ早過ぎた!!」

「…レン、あの子の保護者?」

「…保護者って言わないで、」

「じゃあ何さ」

「…何、だろう。友‥達?」

「聞いてるのはこっち、」


問われて返答に迷ってしまった‥というか、関係を問われて頭が混乱した。
よく来るコーヒー屋さんの恰好いいお兄さん、友達、友達以上恋人未満…etc
ぼうっと突っ立っていたら目の前にマグカップ、中は抹茶ティラテ。ふわふわのミルクの上には器用にいくつか星が描かれていた。


「甘党の彼女への眠気覚ましならこれかな…お詫びも兼ねて僕から。渡しに行ってくるから、カウンター交代して」

「…、」

「ちょっと、聞いてるの?」

「‥一応、聞いてる…」

「んもぅ‥、交代はいいから、これを彼女に渡してきて。今すぐに、早急にっ!!」



ずずいと前に差し出されたマグを受けとると声には出さず、首を首肯するだけでレンは辛うじて返事をした。が、眉間には皺、不自然に揺れる海色の瞳…


「…レーンっ!!しっりして!!最優先事項、即刻、今すぐ、直ちに彼女の所に行って!!」

「…うん、」

「保護者になりたくないんなら早くっ!!」


先程言ってしまったキーワードが効いたのかレンはハッとして顔を上げたが目の前には怒る寸前の藍の姿。いつもなら"怒ったら美人が台無しだよアイミー"なんておどけたりするのに余裕ゼロ。もう、どうのしようもない…


「行って、きます」


口ではそう言ったものの、彼女との関係性とはなんとも少なく脆いものだと気付き、レンは再度がっくりと肩を落す。
こんな醜態を晒しながらそわそわしているだなんて彼女は思いもしないだろうなぁ‥心の中で嘆いてみても何の解決にもならなかった。




fine.
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