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□『merry-go-A-round:6』
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「ねぇ友ちゃん、色気のある下着って‥た、例えばどんな下着の事を言うの?」
「そうか、ついに春歌にも春がやってきたのか私は嬉し」
「違うの違うの、例えばの話なのっ!!」


思っていた素朴な疑問をおしゃれな親友、友千香に聞けば予想を遥かに越えて食い付いてきた。例えばの話だよと言っても言っても聞く耳を持ってはくれなかった。春歌は着痩せするから、どうせ今日は淡いピンクでしょ?、等と言いたい放題。


「まぁセクシーなのって色々あるからねぇ‥授業終ったら買い物行こ?ね?」
「え‥ぁ、き、今日?」
「そ、今日。思い立ったが吉日って言うじゃない」
「私は、セクシーな下着っていうのがどんなものなのかを聞きたいだけで‥」
「んじゃ授業終ったら校門の前ね、よろしくぅ」


またあとでね、満面の笑顔でそう言いながら手をひらひら。もうこうなってしまっては彼女を止める術はない。
その後の授業は散々たるもので、しっかり暗譜してきた筈の課題曲は途中で頭が真っ白状態になって手が止まる始末。普段こんな事にはならないのに‥盛大な溜め息を吐いていたら頭に鈍痛。仰げば束になったスコア。いつも通りの不機嫌そうな表情。


「今の溜め息で1週間分の幸せとさよなら、だな」
「砂月く‥」
「なんだその湿気た面、」


頭に乗ったスコアをどかせば次は額を弾かれた。仕返しとばかりに1週間処か1ヶ月分ですと言及。


「元はと言えば砂月くんの」
「は?」
「‥なんでも、ないですっ」
「今夜だけど」
「行きます、絶対に行きますっ」
「…なんだよ、ご機嫌斜めか」
「っこ‥子ども扱いしないで、ください」


いつも通りに喋った筈なのに、耳に届いた自分の声は絞った様な口調だった。心がざわざわして落ち着かなくて、言いたいことと考えてることもぐちゃぐちゃ‥。
堪らず突っ伏したが、自分の右隣にはまた彼の気配が在る。


「悄気んな、」
「‥悄気てなんて、ません」
「こっちまで辛気臭くなるからどーにかしろ」
「…だったら、」


意を決めて立ち上がる。宙を舞い、散らばるスコア。


「だったら教えてくださいっ!!色気のある下着ってどんなのでしょうかっ」
「……、は?」
「は?じゃないですっ!!言って来たのは砂月くんじゃないですか、薄いピンクは色気‥ないし、放課後友ちゃんと買いに行くことになってしまってだから、なので」


床に散らばるスコアには沢山書き込まれていて、春歌が砂月の方を見れば屈んでそれらを拾っている所だった。なんだか、空気が重い。呆れている、絶対に怒られる‥なんて覚悟していたのに、耳に入ったのは肩を振るわせてくつくつと笑う声だった。


「な、笑っ‥砂月くんっ!!」
「悪い、いや、悄気てる理由が‥お前本当、」
「バカで‥すみません」
「いや、面白い。だから悄気んな、」


わしゃわしゃと髪を撫ぜられて鳥の巣状態。やっぱり子ども扱いしてるじゃないですかと不機嫌そうに言っても笑って頭を撫でるだけだった。


「人の話聞いてま」
「子どもだと思ってる奴に酒なんか出さないって、ちんちくりん」
「…ちんちくりんじゃ、ないです」
「いいこと教えてやるから機嫌なおせ、いいか、」


スコアを拾う態勢そのまま、丁度春歌と目線が合う位置。じぃと見詰められれば妙にそわそわ。近いです、と押し返そうとした手はやんわりと掴まれてしまった。「瞳の色、」
「へ?」
「俺の好きな色」
「あ‥」
「暗くなる前に店来いよ、いいな」


頭に乗せられた自分よりも大きな掌、じわり伝わる体温。くしゃりと音のしたスコアでふわりとした意識が元通り。


「いつものカクテルと同じ、色‥」



一人残され春歌はぽつり、呟いた。




fine.
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