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□『shinka』
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「徹夜明けだから無理するなって僕あれだけ言ったけど、ちゃんと聞いてた?」

「聞いて…ました、すみません、」


事務所主催、毎年恒例のお花見。
前々から参加したいと言っていたのは知っていた…けれど、それに合わせて請け負っている仕事を急ピッチで仕上げようとしていたことだって知っていた。
無理をするなと言っても無理をする彼女のことだから仕方がないとは思っていたけれど…、誤って手にしてしまったお酒に一口でダウン。だから言わんこっちゃない‥


「頭が…ふわふわ、します」

「だから、酔っ払ってるんだって」

「あの、歩けるので‥下ろしてくらはい」

「呂律、回ってないんだけど」


下ろしたとしてもふらふらして自分から桜の木にぶつかりに行くんだから、このまま大人しく背負われていて欲しいのが正直な所。時折首筋に顔を埋めて嫌々するもんだから‥擽ったくて仕方がない。


「この間咲いたばかりなのに…もう、散ってしまうんれすね、藍く‥ん」

「よく持った方なんじゃないの?」

「寂しいなって‥」

「そうだね‥、でもまた来年咲くよ」

「また…藍くんと一緒に、見たいです」

「うん、約束。だから、ね‥ハルカ」

「…はい、」

「泣かなくていいよ、」


今日着ているパーカーの肩口は、涙で大きな染みを作っているんだろうなって…背負われていて顔が見えないから、アルコールが入って感情が表に出てしまっているから。嗚咽を漏らす様な泣き方ではなく、懸命に声を殺しながら静かに泣いている。甘えてくれたって、我が侭を言ってくれたって、大声で泣いたっていいのに…数歩進んでから、よいしょと呟いて彼女を背負い直した。


「違(たが)えたりしないって約束した、」

「分かって‥ます、けど、けど‥」

「ほら、花吹雪‥綺麗だよ」


ぐすりと鼻を鳴らしてから首を擡げた気配。闇夜に映える桜の花弁。この量なら自分の髪や、勿論春歌の頭にも沢山乗っているだろう。帰ったら払い落としてあげないと…そんなことを思っていたら首筋に再度、埋められた感覚。どうしたの?と問えば嫌々をしつつ、何でもありませんという短い返答。強がらなくてもいいのに‥


「ゆっくり歩くから、夜風に当たって酔いを覚まして‥帰って寝よう」

「ギュッって‥」

「元からそうするつもり、」

「…はい、」

「また来年、一緒に見よう。約束」

「はいっ、」


ふわり、後ろから抱き締められた。
元から落ちないようにと掴まっていた両手は僕の胸元で絡め繋がれていて…うん、悪くは‥ない。


「寝たら落とすからね、」

「はっ、ね、寝ませんっ!!」

「嘘だよ、」


落とすわけないでしょ、と悪戯っぽく言えば安心しましたと笑みが混じった気配。


そう‥君には笑っていて欲しいんだ、
僕の隣で。





fine.
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