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□花屋の娘
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一昨日も依頼が無かった。
昨日も依頼が無かった。
そして今日も依頼は無い。

「銀さん!ごろごろしてる暇があったら少し手伝ってくださいよ!」

新八はうるさいし。
銀時はジャンプを顔の上に乗せ、新八の言葉が聞こえない振りをした。

「もう!!」

足音が遠ざかっていく。
それにしてもヒマでしゃーねーな。

ヒマだから新八を手伝う、と言う選択肢は銀時にはない。晴れ渡った空は、夏の到来を告げている。

ふと、テレビから聞こえてきた言葉。

『これから恋の季節!!皆さん恋してますか!?』

恋ねぇ。

銀時にはついぞ恋などという甘ったるいものにはここ最近めっきり縁がない。

甘いものは大好きだ。
よし、恋でもしてみるか。

………誰に?

周りを見渡せば、下手糞な鼻歌を歌いながら掃除機をかける新八の後姿が目に入った。
…ボインのねーちゃんもナースの彼女もいねーし、新八でいいか。

銀時は普段使わない脳みそを駆使して、新八との恋を妄想した。

まず恋っつったら、デートだろ?



「銀さん、どこに行きましょうか?」
銀時の妄想の中で、新八は上目遣いで銀時に問う。

男にしては大きな黒い目。普段地味だと思っていても、やはり性格はともかく容姿は美しいと評判の妙の弟だ。よく見れば顔立ちは整っている。

どこに行こうか。べたに公園でも行ってみる?

銀時がそう答えれば、新八は少しはにかんで

「はい。」

と答える。



お、なかなかいいんじゃねーの。やるな新八。新一になれるのはもうすぐだな。
銀時の妄想は広がっていく。



公園について、二人でベンチに座る。

「銀さん、かくれんぼしませんか?」

新八はそういうと立ち上がって、銀時の手をひっぱる。

かくれんぼ?俺もうそんな年じゃねーよ。

「いいじゃないですか。早く僕を見つけてくださいね。」

何?俺が鬼なの?

「そうですよ。早くしないと、僕どっか行っちゃいますからね。」

やってやろーじゃん。お前なんかすぐに見つけてやるからな。

「はい。早く見つけてください。」

ベンチから立ち上がった銀時の前には、もう誰もいなかった。



「銀さん!!」

その声で目が覚めた。

「あーやっと起きた。買出し行くんで付き合ってもらえませんか?」

「………新八?」

「…?はい?」

自分の顔の上に、新八の顔。

「なんですか?」

「…いや。」

銀時は起き上がり、後頭部をぼりぼりと掻く。

………なんだ、ありゃあ。

「銀さん早く。」

玄関から銀時をせかす新八の声。

「おー。」

万事屋の階段を下りながら、新八はスーパーのチラシを見ながら何かぶつぶつとつぶやいている。

「何ひとりごと言ってんだ。」

「あ、いえ、今日どこのスーパー行こうかなって…セールの店が三つあるんですよ。」

階段の途中で立ち止まり、銀時の先に居た新八が振り返って銀時を見上げた。


「銀さん、どこに行きましょうか?」


その新八の問いに、銀時は答えられない。

「…銀さん?なんか顔赤いですよ?」

「…っ!!なんでもねぇよ!!」

立ち止まっていた新八を追い越し、銀時は足早に階段を下りた。



「僕を見つけてくださいね。」
夢妄想の中の新八の言葉がこだまする。

早くみつけてやるからな。





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フジ/ファブリック:花屋の娘


まだまだ銀新未満。
2010.05.29 月見 梅

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