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□二人のアカボシ
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ドアに新八の背中を押し付けて、そこを一気に貫いた。

「ああッ…!」

数時間前にも高杉によって開かれたそこは、高杉のものを待ちかねていたように飲み込んだ。高杉は新八の両足の膝裏を持って大きく開かせる。新八の腕は高杉の背に回り、離しはしないとでも言いたげに高杉の浴衣の上から爪を立てる。

「あ、あっ、」

繋がったそこからは、先ほど高杉が放った欲がとろとろと流れ出てくる。そのぬめりを借りて、さらにずぶりと突きさすと、新八の体が跳ねた。

「あぅっ、んんッ!」

新八の体をすべて支えている高杉の口からも息が漏れる。それでも高杉は、その動きを止めようとはしなかった。規則的に動く腰に合わせて肌の擦れる音と、交わった水音が響く。首元に湿った高杉の息がかかるのを感じた。それだけでも、新八の中の欲を高ぶらせていく。

「おねがっ…あっ、」

高杉は、新八の首に歯を立てた。少し力を入れれば、この薄い皮膚の下に流れる血管が破れ、真っ赤な血が噴き出すだろう。

このまま殺してしまえば、新八は自分のものになるのだろうか。ならばやはりあのときに殺すべきだったのかもしれないと、高杉は思った。

「もっと、…んっ、あッ、はぁっ、」

新八は高杉の体にしがみついて懇願する。高杉は新八の足を持ち直して、さらに腰を奥へと沈める。新八の中は柔らかく、しかし高杉に絡みついて離さない。高杉は腰の動きを速めた。

「あっ、あ、おくっ、…ああッ、い、いいッ…」

新八の中のその場所を高杉のものが刺激すると、新八の声はさらに大きくなった。高杉の腹に擦れるそれが、新八の中の快感が高まっていることを示している。

「しん、すけぇっ…あ…ッ、」

必死に自分にすがる子供を、高杉は抱き締めるしかできない。新八が何を恐れているのか、高杉にはわかるはずもなく。例えひとつになれないとわかっていても、体で繋がることでしか、自分たちは分かりあえない。熱を共有して、欲をぶつけあって。こんなにも愛してしまった。

だから、すべてをさらけ出して抱き合わずにはいられないのだ。

「くっ…!」

「はぁッ、…やああッ…!」

高杉は新八の中の空虚に、再びすべてを吐きだした。それは新八の中から溢れて、ぽたりと床に落ちた。
































初めて来る場所だった。風が冷たい。地元にいるときよりも寒く感じる。

「…それで?これからどうするネ?」

駅前に降り立った二人は、途方に暮れていた。

「どうするって…」

バスを乗り継いでおよそ十時間。沖田と神楽はようやく目的地へとたどり着いた。土方のメモを頼りに来てみたはいいものの、しかしそこからどうしていいか皆目見当がつかない。そもそももう十時間も経っているのだ。新八と拉致犯(と沖田は思っている)は、どこか別の場所へ行ってしまったとしても、不思議ではない。

それでも、新八に会える可能性を、諦めたくはなかった。

「とにかく聞き込みでィ。ホレ」

沖田は一枚の写真を神楽に渡す。それはこの間のクラスマッチの時に撮った新八の写真だった。お互い一番良いポジションを取ろうとして前に出る二人の後ろで、控えめに笑う新八がそこにいた。

「その高校生、見たことありやせんかって、聞いて回るしかねーだろ」

「捜査は足を使え」と土方がよく言っていた。あんな奴の言葉を行動に移すのはしゃくだが、今はこれしか手立てが思いつかなかった。結局自分も、警察の真似ごとをしているに過ぎない。だけど新八が危ない目に合っているかもしれないのに、家でただ待っているのはもっと嫌だった。

「わかったアル!絶対に新八の居所、聞き出して見せるネ!」

神楽は気合も十分に、そこから走り去っていった。さっそく通行人の主婦に声を掛け「このメガネ、見たことないアルか?」と尋ねているのが見えた。何かと沖田に突っかかってくる神楽ではあるが、沖田は神楽を嫌っているわけではない。

沖田も神楽と反対方向に足を向け、聞き込みをするために路地の向こうへと走って行った。





…しかしそう簡単に見つかるはずもなく。

再び駅前で落ち合った二人の顔には疲労と落胆の色が浮かんでいた。

「…新八いないアル!うそつき!!」

「…うそなんかついてねーよ。いる『かもしれない』って言っただろィ」

「新八ぃぃー…どこいったアルか…」

「あ、そっか」

沖田は何かを思い出したように、携帯電話を取り出した。

「…?」

しゃがんだ神楽が沖田を見上げる。沖田の耳元で、コール音が続く。

「もしもし?近藤さん?俺、総悟」

「おお!総悟か!?久しぶりだなァ、どうしたんだ?」

電話口に出たのは土方の上司である近藤だ。近藤が例の事件で二人を追っていると、沖田は知っていた。

「どうだ!彼女は出来たかガハハハ」

「近藤さんは今どこにいるんで?」

「お、俺か?俺はA県のC市ってとこに来てんだ。海沿いだから海産物がうまいぞー」

「そうかィ、わかった」

それだけ行って沖田はぶつりと携帯電話を切った。受話器の向こうでは「アレ?総悟?おーい総悟くーん!?」と近藤が呼びかけているがそれがもちろん沖田に聞こえるはずはない。

「わかったC市だ。行くぞ」

携帯をポケットにしまい、沖田は神楽に呼びかける。一部始終を聞いていた神楽は、

「…最初っからそうしてたほうが早かったアル」

と沖田の背中を追いかけながらぼやいたのだった。
































警察は順調に高杉を追い詰めて行っているらしい。その情報を得、坂田は安心した。早いところ捕まってもらわなくては困る。こちらにはこちらの都合があるのだ。騒ぎ立てている幹部会の年寄りどもは、当主の体を心配する割には早くも次の総帥を誰にするかで議論を始めている。組織なんてそんなものだ。

あの男、当主が生き延びたことは残念だったが、わざわざ殺さなくとも、あの男を失脚させる材料はいくらでもあるだろう。真っ当なことばかりしていたら組織のトップなど務まらない。坂田はくっくっと低く笑って、煙草を口元から離した。あの女から自分のことが警察に漏れたとしても、それだけで証拠にはならない。誰も俺を捕まえることはできない。

それにしても、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。当主を刺したあの女も、子供を連れて逃げたあの男も。…そして、渦中の真ん中にいるあのお坊ちゃんも。人生はうまくやったもん勝ちだ。

この部屋も、屋敷も、いずれはすべて俺のものになる。

坂田は当主が仕事で使っていた机を撫でた。当主が不在の今、この部屋の主は坂田だった。

そこへ、部屋をノックする音が聞こえた。坂田は煙草を消し、「どーぞぉ」と声をかけた。

「失礼いたします。警察の方が坂田さんにお会いしたいと…」

ドアを開けたのは使用人の女性だった。妙よりももっと若い。

「通していいよー」

女の後ろから現れた男は見たことがあった。細身のスーツの下のYシャツには皺がよっていた。

「K署刑事課の土方だ」

確か、妙が捕まった夜に連行していったのが彼だった気がする。

「…はじめまして、ではないか。土方サン」

「少し聞きたいことがある」

刑事はろくな挨拶もせず本題に入る。その威圧的な態度が坂田の癇に障る。それ以前に、この刑事の目が気に食わなかった。

「…なんでショウ?俺に答えられることなら…」

「志村新八が連れ去られた、…そう通報したのはアンタか?」

坂田は後ろに控えていた女の使用人に目配せをする。女はぺこりとお辞儀をして、ドアを閉めて出て行った。

「…そうだけど?早く捕まえてくれないかなぁ。日本の警察は優秀だって聞いてるけどぉ?うちもトップいなくなっちゃって困ってるんだけどねぇ」

嫌味を含ませながら坂田は言った。しかしそれも意に介さずに、土方は続けた。

「どうして連れ去りと言える?あの段階ではまだわからなかったはずだ。…ただの家出だったかもしれないだろう」

「…どう考えてもそうだろーが。あの男がいきなりウチに来て、かわいー新ちゃんさらってっちゃったんだから」

「あの女は、新八は自分の意志で出て行ったと言っている」

「あの女?…ああ、妙のこと?…警察は善良な市民より、殺人犯の言うこと信用するんだ?」

「可能性の話をしている。もしあの女の言うことが正しいとすれば、アンタは嘘をついていることになる」

「…それで?俺が嘘ついてたらなんなの?タイホする?」

坂田は両手で握り拳を作り、手錠をかけろとでも言わんとばかりにそれを前に突き出した。

「…いや」

「だよなァ、嘘つくくらいでタイホされてたら皆タイホだよなぁ」

はは、とあくまで冗談で済ませられるよう、坂田は笑う。真面目に取り合えば面倒なことになりそうだった。

「それに、妙が嘘ついてるって可能性もあるだろ?むしろ妙が手引きして連れ出させたんじゃね?」

「…そうだな」

「な?妙と高杉が共犯だってことも」

「何故新八を疑わなかった?」

無遠慮に坂田の言葉を切って、土方の切れ長の瞳が坂田を射抜いた。

「…新八を?」

「普通に考えれば、一番怪しまれるのは新八だ。子供のいない当主が死んで一番得をするのは家督を継げる新八だからな。新八が当主を殺し使用人に罪をなすりつけて逃亡した…それが一番自然じゃないか?」

坂田は一瞬口を止めた。

「…馬鹿じゃねーの?新八なわけないだろ。あんななよなよした餓鬼が殺人なんて…」

「殺人に年は関係ないさ。十歳に満たない子供だって大人を殺せる」

それは残酷な正論だ。だけど無表情でそれを受け入れてしまうくらいには、土方は優秀な刑事なのだろうと、坂田は皮肉交じりに思った。

「だ、…だけど高杉は、おそらく新八がいなくなればただ一人の後継者になる。高杉にとっちゃ新八は邪魔者だろ?だから連れ去った…そうは考えられないか?」

土方が何が言いたいのかはわからなかったが、この男の話に同調するのは危険な気がした。

「それはねェな。前の当主…松陽が死んだとき、高杉は遺産相続放棄の念書を書かされてる。野郎はまだ高校生だったそうだ。この屋敷の誰かは知らんが…ガキにえげつねェ真似するもんだよ」

坂田のよく動いていたついに口が止まった。土方は続ける。

「…俺はアンタが、どうして『新八が連れ去られた』と知ってたか、疑問に思っただけさ。アンタをどうこうしようってんじゃねぇ」

そう言い終わると、土方はドアのノブに手を掛けた。

「…まあ、」

ドアは音もなく開く。

「アンタが最初から新八がいなくなることを知ってたら、話は別だがな」

刑事は不敵に笑い、出て行った。ドアは同じように、音もなくバタンと閉まった。




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