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□フラフラフライデー・ミッドナイト
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金曜日の夜。
銀さんは飲みに行って、今日は僕と神楽ちゃん二人だけだ。二人だけって言っても、もう神楽ちゃんは寝てしまっているから、居間には僕一人だ。

銀さんはお酒にあんまり強くないみたい。それでも週に何回かは色んな人たちと飲みに行っている。次の日には必ず二日酔いになって気持ち悪そうにしてるから、もう止めたらいいのに。でも銀さんは、酒飲まねーとやってらんねーこともあんだよ、ガキにはわかんねーだろーがな、って言って僕を子ども扱いする。

時計を見ると、もうすぐ十一時になる。
この分だと、今日は泊まるしかないか。神楽ちゃん一人にはしておけないし。

そうと決まれば、さっさとお風呂にでも入ろうと思って、僕は腰を上げた。と同時に電話が鳴った。

「はい、万事屋です。」

「新八君かい?こんばんは、近藤だけど。」

「近藤さん?」

意外な人からの電話にちょっとびっくりする。姉上なら今は仕事中だ。まあ仮にここにいたとしても、近藤さんからの電話なんて姉上が受けるわけない。

「こんばんは。どうしたんですか?」

「いやそれがね…万事屋の奴が酔っ払っちまって、新八君が迎えに来ないと帰らないって言うもんだから…。」

近藤さんと飲んでたのか。それにしてもあの天パ。僕は心で一つ舌打ちをして、ため息をついた。きっと近藤さんにも迷惑をかけてるに違いない。

「すいません。じゃあ今から迎えに行きますんで、場所を教えてもらえませんか?」

僕は近藤さんにお店の場所を聞いて、それをメモして電話を切った。神楽ちゃんを残していくのは不安だったから、きちんと戸締りをして鍵をかけてメモを持って万事屋を出た。










銀さんと近藤さんたちが飲んでたお店はこじんまりとしていて、お客さんはおじさんばっかりだった。客席をすり抜けるたびになんかへんな匂いがする。コレが加齢臭ってやつかな。銀さんの枕と同じ匂いだ。くさい。

姿は見えなくとも、一番奥の席にいることはすぐ分かった。だって、

「だーからあ、俺は新八が来なきゃ帰んねーっつってんだろーがぁ!!」

なんて大きな声が聞こえたからだ。
ほんと恥ずかしいんだけど、なんなのあの大人。

僕は客席の間の狭い通路を体を横にしながらなんとか抜けて、銀さんたちのいる席にようやく着いた。四人席で、銀さんと近藤さんの他にあと二人誰かいる。

「向こうまで聞こえてますけど。」

「新ちゃあん!!」

振り向いた銀さんの顔はすごくうれしそうだったけど、その分なんか腹が立った。分かってたけど、すでに出来上がっている。コレを今から連れて帰るのかと思うと心底げんなりする。銀さんはそんな僕の心情なんてお構いなしで、僕にひしっとへばりついた。

「新八君、済まなかったね。」

銀さんに引っ付かれてる僕を見て、困ったように笑う近藤さんの隣には、珍しく土方さんもいた。土方さんの目の前の席には長谷川さんも。

「なんだ、皆さんで飲んでたんですね。」

普段文句ばっかり言いながらも、やっぱりこうやってお酒を酌み交わせるのは大人だからなんだろう。僕と神楽ちゃんでは、まだお酒の相手は出来ないし。

「新八君も大変だねぇ。そんな上司で。」

タバコをくゆらしながら、長谷川さんが言う。

「俺もハツに迎えきてもらいてぇなぁ。」

しんみり、と長谷川さんが言った。じゃあ迎えにきてもらえばいいのに、なんて言うほど僕は子供じゃないつもりだ。

「いいから早くそいつ連れて帰れ。目の前でそんな甘ったるいもん食われて胸焼けすんだよ。」

土方さんの言うとおり、銀さんの座ってた席には餡蜜から始まり、アイスの乗ったワッフルだのパフェだのが食べかけのまま置いてあった。

「銀さん!甘いものはダメって言ったでしょ!?」

酔っ払ってるから何を言っても無駄だと分かってても、言わずにはいられない。僕の肩にひっついたままの銀さんに怒鳴りつけても、ゆるんだ顔してにやついてるだけだ。

銀さんはにやつきながら、まだ座席に座る三人に向かって勝ち誇ったように言った。

「へへーいいだろー。おめーらには迎えきてくれる相手なんていねーもんなぁー。ストーカーのゴリラに、ニコチン中毒のマヨラーに、無職のマダオだもんなー。独りモンは淋しいねぇー。」

「ぎ、銀さん!」

三人の、お酒のグラスをもつ手がぴたりと止まったのが分かった。ああーもう!何でこの人はこう一言多いんだよ!

「…独りモンはてめーも一緒だろうが。大体、部下に迎えこさせる社長のがよっぽど淋しいな。」

なんて土方さんが、こめかみをピクピクさせながら言う。僕も土方さんの意見に賛成だ。いい年こいてふらふらして、いまだに独りモンで迎えきてくれるような相手もいないから、しょうがなく僕に迎えに来させてるだけだ。

「黙れマヨ方。それにぃ、新八はぁ、部下じゃありまっせぇーん。」

部下じゃなきゃ何なんだよ。僕は呆れながら、引っ付いてくる銀さんの肩を背負おうとした、その時。

突然、銀さんが僕の顔を両手でがしっと挟み込み僕の顔をこちらに向かせる。




ぶっちゅううう、って音がするくらい、銀さんは僕にキスをした。




……………は?


「どーだぁ、分かったか!!新八はぁ、俺の嫁なんですぅー!!」

「………な、」

「なー新八っ!今日もこれから帰って子作りすんだもんなっ!!」

「な、なに、なにす、なにして」

あれ?今この人何した?何て言った?嫁がどうとか言ってなかったか?そうか銀さんもいい年だもんな嫁ぐらいもらってもおかしくないよ子作りとかもやっぱり計画的にやらなきゃだめだよなこの人万年金欠だしそんな状態で子供なんか作ったって子供に辛い思いさせるだけだそうなったらお嫁さんだって銀さんに愛想つかして出て行っちゃたりするんだそうなる前になんとか働かせてお金貯めさせないといけないよそしたらやっぱりもっとちゃんと依頼受けなきゃダメだそういや明日は珍しく依頼入ってたんだっけ。


あれ?この人、僕にキスしなかったか?


「……し、新八君?」

あれ?なんか近藤さんと土方さんと長谷川さんがすごい顔してこっち見てるな。僕なんかおかしいことしたかな。あー土方さんってば、タバコの灰落ちちゃってるよ。

そうだよねそりゃーびっくりするよねなんたって僕と銀さんがキスしちゃったんだから。

そうだよねおかしいよね僕と銀さんがキスなんて。

僕と銀さんが、キス??

「さー新ちゃん帰りましょ。こんな負け犬どもの相手なんかしてらんねーわー。」

「…な、」

「?新ちゃん?」

「…な、な」

「やだなーもうしたいって?銀さんもぉ、したいけどぉ、さすがに人前でのプレイはまだ早いんじゃ…」

「何さらしてくれとんじゃあぁぁぁ!!この変態クソ天パァァァ!!!」

「ぎゃあァァァァ!!!」

鼻フックデストロイヤーファイナルドリームを喰らった銀さんは、あっけなく吹っ飛んだ。











お酒を飲んでる上に、僕に投げ飛ばされた銀さんの足はふらふらと覚束ない。僕は肩にのしかかる大きな体を、よっ、と背負いなおしてまた歩き出す。

「…ったく、酔っ払いめ。」

近藤さんと土方さんと長谷川さんは必死になってフォローしてくれた。男とのキスなんて人生でするキスの回数にカウントされないから大丈夫、とは言ってたけど、それを言う彼らの顔は明らかに可哀想になぁ…って言う顔だった。一体何が大丈夫なんだ、是非とも教えて欲しい。ファーストキスだぞコノヤロー。

「うぅーん、新ちゃあん…。」

「はいはい、何ですか。」

「気持ち悪い…」

「ええ!?ちょっとこんなとこで吐かないでくださいよ!!片付けるの僕なんですからね!!」

ダメな大人は、僕の背中にぎゅっとしがみついた。どうやら吐くほどではないらしい。それに安心して僕は、また足を踏み出す。

すぐにすうすうと寝息が聞こえてきて、握り締めた手から力が抜ける。寝息が酒臭い。僕は銀さんが落ちないように、何回も背負いなおす羽目になった。首を傾けてその寝顔を見れば、なんとも幸せそうで憎たらしい。

「…人の気も知らないで。」

銀さんを背負って歩く道は、どことなく心強い。僕は一歩一歩、踏みしめるように足を進めた。背中の重さが心地いい。

この人は根無し草みたいな人だから、当分お嫁さんなんてもらわないんだろう。それまで、仕方ないから、僕がお嫁さん役でもまあいいか。



それが少し、ほんとに少し、嬉しいと思ったのは、銀さんには内緒にしておく。





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風味/堂:フラフラフライデー・ミッドナイト


たまには新八が坂田を背負うのも良し。
2010.06.25 月見 梅

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