for you, to me, and plans

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コンコンと、控えめに戸を叩く音。
「入れ」
高杉は声をかけた。
「失礼します」という聞き慣れた声。

今はまだ授業中である。
珍しいこともあるもんだと、思いながら高杉は書きものをしていた手を止め、後ろを振り返る。

志村新八は、白い引き戸を両手で静かに閉めた。
体育の時間だったのだろう体操着を着ている。
新八の学年はくすんだ赤い色のジャージだ。
少し長い袖が指先をすっぽり隠している。


「どうした」
高杉は新八に問う。
放課後や昼休みなら、まだしも授業中に此処に来るということは体調が悪いか、怪我をしたからなのだろうが。

「すいません。怪我をしたので絆創膏を下さい」
新八は右手を袖先から出し、おずおずと申し出る。
「消毒くらいしてやる」
高杉が新八の腕を引く。

「え?ちょっと爪がはげただけなんで、絆創膏で十分ですよ」
「いいから、見せろ」
高杉に言われ、新八が手を広げる。
右手の人差し指の爪がはげて、血が流れていた。

「全くちょっとじゃねぇな。何やってたらこんな豪快に爪がはげたんだ?」
「バスケットを…って、先生、痛いです!」
高杉は指先を容赦なく握る。
痛みのために眉間にしわを寄せる新八。
高杉はニヤリと微笑み、その指先の紅をぺロリと舐めた。
瞬間、新八がピクリと震える。

「ちょ、なにを…」
その反応がおかしく、クックッと声を出して笑えば、新八は不満げに「早く、絆創膏出して下さいよ!」と怒鳴る。
「あぁ」
立ちあがり、高杉は戸棚から絆創膏と消毒液を出した。
新八の頬は面白いくらいに真っ赤で、高杉は再び笑みを浮かべた。
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