ずっと前からお前を知っている
















ずっとずっと前から、俺はとっくに知ってたよ。







始まりとかきっかけなんかはもう忘れた。そんなものを意識するほど気を使う関係でもないから。だけど気付いたらもう、お前へ触れようとして伸ばす手を抑えるのに必死になるくらい、俺は駄目になってたんだ。

ずっと前から俺はお前を好きだった。

「好きな人が、……できたんです」

だから、お前に好きなやつができたことも、告げられる前から知ってた。だってずっとお前を見てたから。お前を誰よりも知ってるから。寝ても覚めても母親を探す迷子みたいにお前の後ろ姿を見て、こっちを向いてくれないか期待して。

「ほー、そりゃめでてぇこって」

近頃明らかに挙動不審なダメガネに苛立ち「おまっ、ちょ、そこ座れ」と無理やりに座らせ、問いただしてみればこのザマだ。わかってて、新八にこんなこと聞く俺は実は自虐プレイが好きなのか、とも思った。あの変態くの一のことは笑えねぇ。

「……笑わないんですか」

「なんでよ。お前ぐらいの年ならフツーだろ。むしろ今までが俺ぁおかしいと思ってたね、好いた好かれたの一つもないなんざ」

ソファに浅く座って、いつもはしゃんと伸ばしてる背も今日は猫背気味になってる。真正面に座る俺の顔を窺ってるみたいに。

「…で?」

俺に何か意見を求めるような視線に耐えられなくなって、俺はわざと顔を背けた。やっぱり自虐プレイは向いてない。

「『で?』って……、その、どっ、どうしたら……いいですか」

「どーしたもこーしたも、さっさと告るなりデート誘うなりしろよ」

「いっ、いきなりそんなことできません!」

「できませんじゃねーよ、するんだよ」

「そんな、そんなの、断られたりしたら…」

「そしたらまた誘えばいいじゃねーか」

「しつこいと思われたら…」

「あのなぁぱっつぁん、恋愛ってのは先に動いたもん勝ちなの。動いた後のことなんか考えてたら別のヤローに持ってかれるぞ。それでもいいの?」

そう突き放すように言ってやれば、新八はしゅんとうなだれて下を向く。こんなけしかけるようなこと言って俺ぁ何やってんだかなぁ。自分でも呆れる。

俺はお前が好きすぎて、今触れることすらできないのに。

『そんなヤツやめて俺にしとけよ』

本当に言いたい言葉は喉元まで出かかって、必死に飲み込んだ。


















それからしばらくして新八に恋人ができた。新八の隣がよく似合う、可愛い女の子だった。それはもう、妬ましいくらいにお似合いのカップルだ。

「今度二人で、映画に行くんです」

「へー、そりゃよかったじゃねぇか」

「…銀さんのおかげです。銀さんがああ言ってくれなかったら、僕は何にもできませんでした」

笑う新八の顔は本当に嬉しそうで、幸せそうで。

「だからこれからも、何かあったら相談乗ってくださいね」


こんなに残酷な笑顔もないだろう。


「…しゃーねーなぁ、大人な銀さんが童貞ダメガネに恋愛指南してやろう」

「童貞ダメガネは余計です」

「じゃあジミー・DT・ダメガネにしとくか。カッケーだろ、外人みてーじゃん。彼女惚れ直すんじゃね?」

「いらねーよそんなミドルネーム!はったおすぞクソ天パ!!」



好きだよ、好きだよ、好きだよ、新八。本当は誰にも渡したくなんてなかったんだ。きっと俺以上にお前を知ってる奴なんて、好きな奴なんていない。

だけど俺は、お前を好きになったときから知ってたよ。お前が俺のものにならないなんてことくらい。俺じゃお前をそんな笑顔にすることはできないから。だからせめて、だけどせめて、これからもお前の一番近くにいさせてくれないか。


この恋を、終わりにするかわりに。








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企画サイト「恋の終わり」さま提出文
2011.11.16 月見 梅

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