Short Story

□君の泣き顔を見た日
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君が棺の中に眠ってから
幾度となく訪れた墓標

触れ合った唇
その温もりも、流れた涙の色も
全ては鮮やかな記憶の一部
未だ消えることはない
これからもずっと

そして、暗転する世界――――――。





「こんなところで居眠りかい?」

「!」

広間の机に俯せになっていると、頭上から声が降ってきた。
夢を見ていた気がする。
とても残酷な、夢。
永遠にこの声も聞けないと思っていた。
何故そう思ったのかは思い出せない。
この身を巡るのは恐怖と哀しみ。
ただただ震えが止まらなかった。

「ベル?」

何も言わずに、震える手でマーモンの頬に触れた。暖かい温もりが伝う。

「マーモン…生きてる」

小さく安堵のため息を吐いた。
自分が死んでいたかのような単語を聞いて些か不愉快になった。

「どんな夢を見たのか知らないけれど、僕は簡単には死なないよ」

分かっている。ヴァリアーの一員であり、アルコバレーノでもあるのだから。
実力を認めているし、何故こんなにも不安になるのか分からない。
思わずそのままマーモンを腕の中に抱きしめた。

「ムムッ!苦しいよ、ベル…」

無理に押し殺そうとした感情は、潰れることなく膨張し涙になって溢れる。
初めて見るベルフェゴールに戸惑い、何も分からないまま腕に顔を埋めた。

流された感情が移り、辛く哀しくなる。
重苦しい曇り空もやがて雨が降り出し、空を黒く染め上げていった―。






―――――――――

あの日の不安は拭いされないまま現実となった。思い出す度に自分を責め、何度悔やんだだろう。
君のいなくなった世界なんて、すべてモノクロ写真のよう。もう生きていく価値などなくて、堪え切れずまた涙を流す。
どんなに泣き叫んでも戻らない時間。
必要なものはもう何もないのだ。





(そして銀色に光る切っ先を
自らの喉元に向けた――)



END
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