Short Story
□プリズムの魔法
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夜明けも近づく4時頃。
暗殺部隊という名目上、夜中に任務が入ることが多い。
今日は早めに任務を終えたマーモンが、今回の報酬を念入りに確認していたときだった。
「ムギュッ!」
急に後ろから抱きつかれる。
こんなことをするのはベルくらいだ。
「ちょっとベル、邪魔しないでくれないかい?これから口座の入金もチェックしないと…ムギャ」
「しししっ♪やだね」
笑いながら、そのままムニムニとマーモンの頬を引っ張り出す。
「ム、いい加減にしなよ…!」
楽しみの時間を邪魔されたため、遂には殺気立つ。
するとベルは視線を逸らし、
「あのさ、ちょっと行きたいとこあんだけど付き合ってよ」
普段は絶対に人に頼むようなことはないベルが頼み事とは。
滅多にない、むしろ初めてじゃないかと思い一瞬困惑した。
しかしすぐに思い直し、きっと何か裏があるのだと踏んだ。
「へぇ、珍しいじゃないか。ケンカなら今ここでも受けてたつよ」
距離をとって警戒する。
しかし当のベルは攻撃する様子も殺気さえない。
隙をみて攻撃したりというようには見えなかった。
「仕方ないね…どこに行くんだい?場合によっては高くつくよ」
「しししっ 黙ってついてこいって♪」
―――――
ベルの後を追って深い森に入り、30分くらい経っただろうか。
そのままどこに行くかも知らされず、聞いても答えない。
移動速度は速いため、それなりに遠くへ来ているはずだ。
任務後の疲れもあり、面倒にも思いはじめ、だんだん帰りたくなってきた。
(いつもの5倍は請求するよ…!)
「お、間に合った」
ようやく目的地に着いたようだった。
ため息を零しそうになりながら続く。
「……!」
すると急に視界が開け、光が差し込んだ。
目の前に広がるのは上り始めた朝日を受け、乱反射する水面。
キラキラと輝く湖が広がっていた。
「綺麗だろ?俺の秘密の場所」
景色の美しさに目を奪われる。
ベルは若干眩しいのか、前髪で隠れた眼を細め、手で影を作る。
「…一体どんな風の吹きまわしだい?」
しばらくしてベルの方に向き直ると、口を塞がれた。
「Buon Compleanno、マーモン」
光の魔法が解ける前に
王子様の口づけを。
(今回だけはタダにしてあげるよ)
End