Short Story
□awake or asleep
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寝ても醒めても
想うのは あなただけ
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ゆっくりと流れていく重たい雲。いつの間にか太陽は陰ってしまっていた。頬に残る濡れた感触を指で拭う。欠伸のついでに流れたものではなく、幾筋か重ねられた跡があった。
最近ひとりでいると、ふと感傷的になるときがある。
前任のマーモンがどんな人なのか、詳しくは知らない。しかし彼が今も昔も心から好いているであろうことなど、長く共にいれば安易に分かることだった。いつもは飄々と意地悪く微笑んでいるが、時折見せる悲しげな顔。隙あらば無意味に毒舌を撒く理由が、そんな顔を見たくないからだなんて言える訳がなくて。
想いが募れば募るほどに彼の顔も声もが焼き付いて離れない。でも、どう足掻いても所詮は片想いだった。この気持ちが伝わることもないし、言ってもきっと無駄だ。彼の視線の先には前任しかいない。それは自分が一番よく知っていた。このまま、いつものように傍にいれれば。それ以上望まなければいい。
「センパイの、バーカ」
言葉は空気に溶けて、なんだか虚しくなる。本当は自分だけを見て欲しかった。他の誰かを想う姿なんて、ただただ辛くて苦しい。こんな気持ち消えてしまえばいいと何度思っただろう。手を伸ばしても掴めそうにない現実。それはまるで自分が扱う霧の幻影のようで。
「…バカなのはミーですね」
呟いて自嘲気味に笑う。
いつも口をついて出るのは悪口ばかり。気を引こうにも、逆のことばかりしているなと常々思う。本当に馬鹿だ。好意の一つでも口にすればいいのに。まぁ、そんな気は全くないのだが。
「おいカエル。飯だってよ」
唐突に上から声が降ってきた。
「……ベルセンパイ、人の寝込み襲おうとするなんて最悪ですー」
内心とても驚いたが、顔だけはいつも無表情に取り繕って答える。
「は?わざわざ王子が呼びにきてやったっつうのに、誰がカエルなんか襲うかよっ」
「ゲロッ」
銀色のナイフが数本頭に突き刺さる。
あれだけ考えこんでいてもいつもの喧嘩になると、諦めて小さく溜息をついた。
「はぁ。いちいちナイフ投げないで下さいよー たまにはコーハイにも優しくしたらどうですかー?」
「うししっ 黙って倒れろよっ」
続けざまにナイフの刺さる音が響いた。
「センパイなんて、大嫌いです…っ」
( 恋は 盲目 )
End.