短編

□貪欲な恋愛
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・微裏、甘め。




「ヒロさん、別れませんか?」

「――え?」


不意に告げられた、別れの台詞に俺は固まる。
ドキドキと脈打つ心臓が苦しくて息が上手くできなくなる。


「じょ…冗談だろ?」
「冗談じゃないです。俺、ヒロさん以上に好きな人が出来たんです。」


そう言った野分の隣には野分より年下の清楚な感じの女の子で俺なんかよりずっと素直そうでかわいい子だ。


「ヒロさん、すみません。」


その言葉に息が詰まる。
目の前の二人があまりにお似合いで余計に苦しくなる。

あやまんな。

あやまるぐれぇなら…



―――――
――――
――


「――――!?」

ゴボゴボ

目を覚ますとそこは水中で慌てて俺は浴槽から這い出る。


「ゲホゲホ!」


どうやら、風呂に入っている内に眠ってしまったらしく危うく溺死するところだった。


「ゲホッ…ったく…なんであんな夢見んだよ。」


今だに脳裏に野分と並ぶ女の子の姿が残っていているのが恨めしい。

しかも、現実的に考えたらこの先起こり得る出来事だからなおさら、ショックだ。

野分がこの先、一生自分を好きでいてくれるなんて保証はどこにもない。
もし、野分にあんな事を言われたら俺はどうするべきなのだろうか。

やっぱり、野分の事を考えたら大人しく身を引くべきなのだろうか?

でも、俺は――


「何考えてんだか…」


こんなこと考えんのはやめだ。
たかが、夢ごときに29の男が振り回されんなんて情けなさすぎる。



「ヒロさん、ただいまです。」
「あぁ…おかえり。」


風呂から上がると野分が帰ってきた所で俺はろくに野分の顔も見れずに返事を返して冷蔵庫に向かう。


「ヒロさん、どうかしましたか?」


不意に後ろから抱きしめられて、手にしたペットボトルを落としそうになる。


「別に、なんでもねぇよ。疲れてんだろ、風呂入ってこい。」
「嫌です。」


野分に抱き締められて、涙が滲んでくるのがわかった。


(相当、ダメージ食らってたのか俺。)


俺はコイツが本気で好きなんだ。

だから、

好きで居て欲しい、

愛して欲しい、

失いたくない。

いつから、俺はこんなに貪欲になってしまったんだろうか。


「ヒロさん、泣かないでください。」
「…っ!」


体を反転させられて正面から抱き締められる。
それだけで、また涙が溢れてきて俺は野分にしがみつく。


「好きです。」


顔中にキスをされて、それから唇を奪われる。
その優しく甘い口付けは俺の中のモヤモヤしたものを溶かしていく。


「野分……俺から離れんなよ。」
「はい。ヒロさんが嫌だと言っても離しません。」


精一杯、強がってそう言うと野分はいつもみたいに笑って俺の頭を撫でてまた、深くキスをした。



******



耳に届くのは卑猥な水音と互いの吐息と心臓の音のみ。

今だにこの異物感と圧迫感にはなれないが野分の存在を感じることのできるこの行為は嫌いではない。


「ヒロさん、好きです。」
「っあ…あ…」


その言葉と野分の熱が心地よくて嬉しくて俺は行き場をなくしていた腕を野分の首に回して触れるだけのキスをする。

野分は一瞬、驚いた顔をしたが、嬉しそうに微笑んでまた…

「好きです。」


何度も、


「好きです。」


何度もそう囁いてはキスを落としてくる。


何回言えば気が済むんだよ、と舌足らずで告げると野分は俺の髪を梳いて、


「ヒロさんの不安がなくなるまで何回でも言います。」


なんて、涼しい顔でサラッと言ってのける。
それが少し悔しくて、


「野わ…す…好きだ…っ」


滅多に口にしない気持ちを伝えると野分は目を見開いてから…


「あっ!野わっ…ゆっくり…」
「無理です。」


急に激しくなった律動に抗議すると、野分は困ったように眉間にシワを寄せて、


「そんな可愛いこと言われたら我慢できなくなります。」
「野わっ…てめぇ…っあ、あ…」


まるで、体の芯から溶けてしまうような心許なさに必死に野分にしがみつく。


「ヒロさん、愛してます。」


意識を飛ばす直前。

野分にそう囁かれ、終わったら絶対に怒鳴り散らかしてやる!と心に決めていたのにそれだけで許す気になってしまった。

本当にこいつにはかなわないと、改めて自覚した。






貪欲な恋愛
どんなに求めても、まだ足りない。
それだけお前に溺れてるんだ。


[あとがき]
初エゴいかがでしょうか?
若干意味不明な文になってしまいましたが…;;
萌えていただくたら幸いです!


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