wsの長編

□May
1ページ/1ページ


その日は蒸し暑かった。

明日は授業参観という事で、放課後美化委員は
大掃除をすることになっていた。

俺は斎藤とは
普通にやっていた。
俺の中の
斎藤への緊張感が
ほぐれることはないが、
当たり障りなく
クラスメイトとして
普通に接していた。

それ以上でも、
それ以下でもない。

教室内の机を
廊下に運び出すとこまでは、これといった会話もなかった。

何もなくなった、
正方形のがらんどうの部屋。

2人っきりでいると
なんだか急に寂しくなった。
それまでの机をひきずる
騒音がなくなって、
突然静寂が訪れた。

俺はなるべく
音をたてないように、
箒で教室を掃き始めた。

斎藤は俺の対角線上に居て、同じように
ゴミを集め始める。

だんだんと
距離が
縮まっていく。

「なぁ、俺、
和奏に
嫌われてるのかな?」

斎藤はいきなりそんな
変な事を聞くから、
俺はギョッとした。

まるで氷水をイッキ飲みしたような気分だった。

嫌いだとしても、
嫌いだなんて
言える訳がない。

しかし、常日頃の俺の緊張感に気付いている斎藤に、都合のいいごまかしがあるとは思えなかった。

「なんで?
どうしてそれを
聞こうと思った?」
「何でって言われても...
何となくだなぁ。」
「俺はおまえに嫌なことした覚えもないし、
された覚えもないよ。」

俺はそう言葉をにごす
ことしかできなかった。

「まぁ、そーだな。
じゃ、俺達もっと仲良くしようぜ。」

斎藤が集めたゴミと
俺が集めたゴミが合流した。

こーやって見ると、
何か女の子みたいな
顔だな。

少し長めの前髪はいいセンスしてると思う。

斎藤のコバルトブルーの
腕時計を今も鮮明に思い出せる。

新緑の季節に俺は恋した。






.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ