wsの長編

□July
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夏の大会1週間前。

俺は退部届けを
顧問に押しつけた。







「どうした和奏。
3年と何かあったのか?
気後れせず、相談してくれないか。」

違う。
見当違いだ。
先生は何も分からない。

俺しか気づいてないことなんだ。

「何もありません。
ただ、もう俺はバスケができないんです。」

「どこか故障してるのか?はっきり言って、
おまえが居れば
今年インターハイに行けると思う。」

黙っていた。
俺は行きたかったから。

小学校の頃からずっと夢だったインターハイ。

でも、俺にはそんな資格ない。

バスケをやる資格すらないんだから。

「先生も初めは戸惑った。自分の代わりだって言って、相良が一年を勧めてきた時はびっくりした。
しかし、今は相良の選択は間違ってなかったことを確信してる。
アイツはこの部で、自分より強いのは和奏しか居ないと見極めたんだ。
ここだけの話私もそう思う。」





泣きたくなった。

俺には目標とか目的なんて、なかった。

ただ、星の存在があったから。

星を越えた今、
俺は何を目指して、
バスケをすればいいのか
分からない。

他のプレーヤーに
びくびくしながら、
バスケをしたくない。

少なくとも、
そんなんじゃ
自分をのばせない。

5人でバスケなんて
今更できないんだ。




「先生、
申し訳ありません。
バスケはできません。
先生が言うような才能が
俺にあるとは思えません。進学のことで、
時間を勉強にまわさなくちゃいけないし。」

あれだけ俺を引き止めたくて力説していたのに、
進学を口にしたとたん、
先生の顔色が変わった。

哀しいかな、
どんな教師だって、
進学校の進学を邪魔することはできない。

結局のところ、
俺の価値はそこまでだ。

代わりなんていくらでもいる。
スタメンになりたい奴は
いっぱいいる。

やる気のあるプレーヤーとやる気のないプレーヤーであれば、

やる気のあるプレーヤーが選ばれるのは当たり前だ。

「そうか…。
まぁ、おまえが決心したことだ。
無理にやらせることもできないしな。」


「ありがとうございます。今までお世話になりました。」

俺は何も見ないようにして、職員室から離れて行った。

まっすぐ昇降口に向かって、誰とも口をきかずに
1人で帰った。

あの大会の日の午後を
思い出しながら。













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