彼らの恋愛事情

□no past, no future
1ページ/1ページ


no past, no future



冬の夜だった。
空気が澄んでいるから
月や星がきれいで、
吐息が白くなるのも
ぼんやり見えた。

夜の公園には
子供たちのはしゃぎ声も
なく、ただ街灯が
寂しく立っている。

俺は足の裏で、
サッカーボールを
いったん止めて、
アイツのスニーカーを
狙って軽く蹴る。

こうしてやらないと、
アイツは上手く蹴れない。

在るのは、
俺と晶の吐息。
それと2人の間を行き来するサッカーボール。

俺は上着のポケットに
手をつっこんで、
ボールが来るたびに
身構える晶を観察。

初めのうちは
下手だとか言って
いじっていたが
今はそれも飽きてしまった。

晶は疲れてきたのか、
ボールを止めて
はぁはぁいってる。

俺は弱ってるのを
いいことに、
今まで気になっていたことを聞いてみた。

「なぁ、高校のころに、
彼女いた?」
「...んだよ。」

晶はやけになって
ボールを蹴り返した。

「いいじゃん。」
「いたよ。」
「かわいかった?」

晶は少し黙って、
そして他人事みたいに
話し始めた。

「かわいかった。
けど、好きじゃなかった。周りの奴らが付き合ってるのが羨ましくて、
たまたま俺のこと
好きになってくれた子と付き合った。」

俺は足で止めてるボールを蹴りあげて
膝でリフティングを始める。

晶の次の詞を聞きたくもあり、
怖くもあって、
俺は晶を見れなかった。

「結局、自然消滅。
俺は終わってから、
その子のいい所を
1つ1つ思い出してみた。で、俺はただのバカだって気づいた。
その子は俺のなかで、
罪悪を突き付けている。
けど、その子の中に
俺はきっと残ってないんだろうな。
残ってても、
クシャクシャに丸めた
紙屑みたいになってると
思う。」

俺は右膝であげた
ボールをとった。

「おまえも捨てちゃえば
いいんじゃね?」

俺は晶が
そんな過去に捕われる
のが嫌だ。
そんなことで、
晶が哀しむのは
見たくない。

「もっと俺との今を大切にしろよ。」

晶は俺の顔を
じっと見つめて
それから笑いだした。

「おまえさ...
あー、もうっ...。」

何か言おうとするが、
笑いが止まらないらしい。晶は俺からボールをとって至近距離で
俺に投げつけた。

「いってぇ!!
ふざけんなっ。」
「おまえがアホすぎて
俺は恥ずかしいんだよ。」 「アホ言うな!!」
「いいじゃん。
俺はアホとの今が
一番の宝物だよ。」










結局俺達は
こうやって
戯れあって
お互いを慰めあってる。

哀しい未来が
2人に訪れることが
怖くて、
2人で励ましあってる。

過去や未来に
幸せとか不幸を探すことは簡単。

だけど、俺達は
現在にしか
生きられないんだから、
あたたかい帰り道こそ至高。

そういうことを
1つ1つ探しだして、
2人で共有して行くのが、2人の道で
いいでしょ?







.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ