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□おやすみ
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『おやすみ』


夜11時すぎのコンビニ。眠そうな定員がレジの
精算をしている。

飲み会で食べた揚げ物と、それほど得意じゃないアルコールのせいで
気分がわるかった。

まっすぐミネラルウォーターの棚に向かう。

冷蔵庫のトビラの反動によろけて、
飛び出してきた冷気が
ほてった顔に心地よい。

黄緑色のキャップのいつものやつをとって、
どうもその一段上にある
派手なデザインの
炭酸ジュースが気になった。

爆裂シュワッと
トロピカルソーダ


バカじゃんっwwww
絶対売れるわけないだろw名前からして気持ち悪いw

俺は冷気に別れを告げようとドアをしめかけた。

なんか、
アイツこうゆうのバカうけしそうだよな。
ついいつもアイツに突っ込むみたいに突っ込んでたし...。

もうわけわかんねぇ。
相当呑んだな...。


「二点で272円になります。」

爆裂シュワッと
トロピカルソーダは
高かったorz





「ただいま。」

アイツは今日夜バイトって言ってたからいねぇよな。

なんとなく無言が辛くて、誰もいないのに
ただいまなんて言ってしまった。
なんか寂しかった。

今日はもう寝よう

ドアに鍵をかけて
まっすぐ寝室に迎う。
明かりをつけると
1人であることが、
自分の中で強調されるようで。
真っ暗な中を勘と手探りで進んだ。

寝室に入って
自分のベッドだと思われる場所にくずれ落ちる。

フカフカのベッドが、俺を受けとめてくれるはずだった...。

「うわっ、何だこれ」
「いってぇっ」

ベッドに人間がいた。
驚いてベッドの上から
床に落ちると、
サイドテーブルの、
スタンドライトが点いた。
暗闇を切り取ったような
灯りの下に、
アイツの寝起きの顔が現れた。

「起こすなよ...」
「はぁっ、何で俺んとこで勝手に寝てんだよ!!」
斉藤はいつもソファーとか床にまんまとか、
寝袋引っ張りだしたりだとか...。
とりあえず俺のベッドで寝ることはなかった。

「寝起きにきゃーきゃーうるせぇよ」
「俺のベッドで寝るな!!」

俺は斉藤をベッドから
落とすと、
斉藤から掛け布団を奪ってそれにしがみついた。

ゴトンと音がして
次に抗議のうめき声。

「人が先に帰って布団あっためといてやったのに」
「今日バイトのはずだろ!」
「サボり♪」

又こいつの気まぐれか。
そんなんで金が稼げるとは思えない。

「俺はもう寝るからなっ」
「おい、これなんだよ?
爆裂シュワッと
って明らかに中2センスじゃんwwww」

勝手にコンビニの袋をあさられ、
ヤツは見つけたらしい。
いたずらっ子が、
いいもん見つけたとでも
いいたそうに。

「おまえ趣味悪っ」
「ば、バカ俺じゃねぇよ」

動揺した俺の様子から悟ったらしい。

「ごち☆」
キュルキュルとふたを開ける音がして、
トロピカルフルーツ系の
甘ったるい香りが
匂ってきた。

ライトに照らされた
白いシーツを、
ぼんやりと見つめてから
誰かに起こされたかのように、
飲みかけのミネラルウォーターを呑んだ。

不意に俺が欲しかった時間が、提供されたことに気づく。

「今日は、どこで寝るつもりなんだ」
斉藤の右手のアルミ缶が、パチパチとかわいらしい音をたてた。

「今日は和奏と一緒に寝たい」

ストレートな甘い欲求を飲み干すように...。

空になったミネラルウォーターに微かに残る水滴が、ライトに照らされてきれいだと思った。

ベッドを半分開けて、
斉藤に背を向ける。
すぐにフルーツの香りとともに、
ぬくもりが伝わってきた。

「和奏」
「ん?」
「お帰り。」

あったかくて、
無性に嬉しくて、
斉藤の手を握る。
握り返してくれることが、堪らなく幸せだった。

斉藤の居ない所に俺が居ることが、
あってはならない
哀しいことだと思った。

「おやすみって言える関係って特別な関係だと思うんだ」

「恋人とか家族とか...
確かにそうだよな」

「俺は好きだから、斉藤が」

斉藤の顔を
自分の方に向かせる。
特別だ。
俺だけの。
俺しか知らない。

どちらからという訳でもなく、キスをした。

フルーツの香りが甘ったるいのは、
深くなっていくほど
薄れて行った。









『おやすみ』
愛しいのは、
家族でも恋人でもない。

特別な関係だから。

二日酔いのせいでズキズキする頭と、
アイツの寝顔に会える、
朝になるまで
おやすみ

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