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□言えない
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『言えない』




やっと終わった

文化祭
今日は1日長かった
汗で湿ったスタッフTシャツが気持ち悪い

ボロいパイプ椅子にくずれおち、
はぁと長いため息をつく

誰も見てないことをいいことに、体の芯から脱力
きっとアホ面なんだろう
目を閉じたら確実に寝る…どこを見るでもなく
ただぼんやりと目を開け、遠くから聞こえる
バンドの低音に耳をすませた

「おつかれ〜」

ーアイツがタイミング良かったことなんて一度もあるはずがないー

声で誰が入ってきたか察し脱力のまま
視線だけをむける

「マジで相当疲れてんな」

はしゃいでただけの
おまえとは違うんだ

斉藤は今だ祭のテンションが抜けないらしく
ニヤニヤしながら
自分を上から見ていた
右手にはクラスの装飾に使った
アニメチックな
女の子のパネルを抱えている

「それ、もらったの?」

「俺の嫁

自慢気にパネルの裏側を見せる
(斉藤の嫁)
黒マジックで書き殴ってあった

「学校の備品を下らないことに使うな!!」
いつもの俺ならこんなふうに、檄をとばすはずだが、大きなため息をついて
やれやれと斉藤を見やっただけだった。

「何、そのリアクションせっかくジュース買ってきたって言うのによぉ!」
気づかいなんて珍しい。
俺は半信半疑で斉藤を見るとコーラの缶を頬に押し付けられた。
「うわっ、冷たっ」
びっくりしてバカみたいな声が出る。
そんな俺の様子を斉藤が見てケラケラ笑っていて、
そのせいで頬が紅潮してきた。
本当、厭だ。
よりによって疲れて体が動かないこんな時に、一番めんどくせぇやつがやってくるんだ。

「ありがと。」
俺はコーラの缶を受け取って、タブのカチッという音を聞く。
斎藤が親切にも
予め振っておいたなんていうことはなかった。
安心して開けると、
素直にも飲みはじめた。

斎藤はもはや
ごくごくと
喉を鳴らして飲んでいる。

コーラの炭酸が
シュワシュワはじける
微かな音が聞こえた。

「なぁ、文化祭楽しかった?」

その質問は
唐突で、単純で、
なんだか鼻で笑いたくなった。

コーラを一口飲む。
本当の気持ちを、
喉の奥に
押し戻すように。

「疲れた。」

ため息に紛れた、
オッサン臭い言葉だった。

「それじゃ答えじゃねぇじゃん。」
斎藤は俺を見透かした
ように、
いつもの
ヘラヘラしたふうに言った。

「生徒会の仕事は楽しむことじゃない。」

「じゃあ、楽しくなかったんだな。」

こいつの
ただただストレートな言葉は、
俺を追い詰める。

よく研いだ刃のようだ。

「おまえみたいな、
ただはしゃいでればいい
訳じゃねぇんだよ。」

うざったくなったから
そう言ったまでだ。
俺はこいつが気に食わなくて、嫌いだ。

だから、俺は斉藤に
干渉して欲しくなんか
.......あるはずがない。
だから今俺は
自分の言ったことに、
嘘とか後悔なんて
ないはずなのに。

コーラを持った指先が、
すごく冷たくなっていた。

飲むことも、
捨てることもできず。

西日が部屋にさしこんで
眩しかった。

「何にきれてるのかわかんねぇけど、」

斉藤は意外にも、
いつものヘラヘラ口調だった。

「それじゃ、最後まで
俺をはしゃがせてくれよ」

斉藤の腕が俺にまわって、背中に斉藤のぬくもりを
感じることになった。

俺は急に寂しくなった。
涙がでそうなくらい。

斉藤の腕を振りほどいて、斉藤を自分に向かせる。

「おまえだけに
いい思いをさせてやるか」
俺から抱きしめた
ことは、これが最初だった。

嬉しかった。

斉藤が文化祭を楽しんでくれれば、
それなら自分が大変でも構わないと思った。

それが、俺の本当の気持ちだった。

一だから、
楽しくなかった
訳じゃない一

「ユーヤ。」

「何?」

「好き。」

「んだよ///」

「文化祭で誰かに告るのは、お決まりだろww」

こんな時まで、
こいつはヘラヘラしやがって。

ムカつく。

「なぁ、斉藤。
俺がおまえのこと
好きじゃなかったら
どうする?」

俺の詞で傷つけばいいのに。

俺意外の詞で傷つかないように、守るから。

「哀しいかな。」

「答えになってねーよ。」

「別に、ユーヤは
俺から離れないって
知ってるから。
不安材料にはなんねぇかな。」

俺は答えることができなかった。

それは本当のことだが、
俺は裏切ることもできた。

でも今は暗く
沈んでいたくない。

俺達は青春してると、
不覚にも認めざるを得ない。

好きだって言えないまま、コーラの炭酸が抜けていった。

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