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□July 7th night
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単なる偶然だ。

生徒会の雑務を終えて、
いつもより少し遅くなった。

昇降口にあいつがいて、
なんだか少し嬉しくなったら、
目があったとたん
話かけられて、
もっと嬉しくなった。

「一緒に帰ろう。」

そう言われたことで、
俺が踊りだしたいくらい
幸せだったこと、
斉藤は知りもしない。

そういうことなった日が、7月7日だったのは、
単なる偶然だ。

なのに、
俺は運命的なものを感じて、どこか一人で、浮かれていた。





まだ、蒸し暑さが残り、
6時くらいだというのに
陽は残っている。

俺達は、
まだ温かいアスファルトの道を歩きながら
とりとめのない話をする。

俺は、
返事を何気なくしているつもりだが、
一つ一つに緊張していた。

けど、それを
斉藤が、一つ一つ返す度に、嬉しさで胸がいっぱいになった。

そして、その気持ちのどこかで、斉藤を好きになってしまった罪悪感を感じていた。



「あ、今日って七夕じゃね?」

どこの会話の切れ目だったか、
斉藤は、七夕についてふれた。

なんでもないことなのに、俺は若干動揺する。

「なぁ、お願いごとした?」

定番の質問をされ、
瞬時に俺が一番叶えたいことが頭をよぎる。

「とりあえずは、
期末で赤点とりませんよーに、だろ。」

無難に答えた途端に、
切なくて、哀しくなる。

「現実的すぎっ。
一瞬ひやっとしたわ。
もっと夢を持てよ!
億万長者になってますよーにとか。」

「億万長者になっても、
赤点とったら、
追試だろ。」

「金の力でな…」

「金の使い方しょーもな!」

斉藤の願いごとが
定番で、小学生じみてることになんだかほっとする。

斉藤がこうしていてくれることで、俺は安らぎを得てる。

それが不思議で有難くて、切ない。

「しょーもなくねぇし。
なぁ、悠弥。
織姫と彦星って、
一年に一回しか会えないの知ってる?」

「知ってる」

「一年に一回しか会えないってなんか
かわいそうだし。
本当に好きでいられんかな、ずっと。


またまた、
定番の質問がきた。

こいつと恋バナすることが、俺にとってどれだけ緊張して、エネルギーを費やすことか、こいつは知るはずもない。

現に、
心臓が激しく脈打って、
暑さとは違う汗がでている。

おとぎ話だから。

そう流すこともできる。

けど、俺は
斉藤からの質問をおざなりに返したくはなかった。

「今の俺達にしてみればあり得ないよな。
新幹線もあるし、飛行機もある。会いに行かなくても電話やメールがあるし。」

「それにしたってさ、
好きっていう感情を持続させるのは、大変な訳じゃん。」

「好きってさ、
案外単純なんかも。」

それは、俺の心にうかんだ詞で、
深く思考した言葉じゃない。

すんなりでてきた。

「好きだから会いたいとか、好きでいられるから会うじゃないんだと思う。」

「ん?」

「例えば、俺が麻婆豆腐が一年に一回しか食べられなくなったとしても、
俺は麻婆豆腐好きだよ。」

「あー、何となく解る気がする。
恋愛感情って、
ものものしくて
仰々しい感情に
捉えがちかもしんない。
もっと人間くさい感情なんだろうにさ。」

勢いで、恥ずかしい事を語ってしまったが、
それを真面目に斉藤が返してくれたことが幸せだった。

それでもやっぱり恥ずかしかった。

それに、俺は本当のことはよくわからない。

もし、俺が斉藤に一年に一回しか会えなくなったら、忘れるかもしれないし、
忘れようとするかもしれない。
忘れられない可能性もある。

けど、俺は
今のこの瞬間の幸せは、
忘れないだろう。

「てかさ、おまえ
そんなに麻婆豆腐好きなんだ!!」

俺は、
いろんな意味で赤面し、
安易に柄でもないことを言ったことを後悔した。











自宅につくと、
陽は沈み、
どんよりと雲の立ち込めた夜空になった。

雲の向こうの
幸せ者達に、
叶わない恋を祈る。





斉藤ともっと仲良く
なれますように…
















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