アリスと暴君兎
□零れた涙と
1ページ/1ページ
「…一応、もう一回消毒しろよ。深く切れてるみてーだし」
『ありがと、阿伏っちゃん』
切れた矢沢の指を手当てして、救急箱をとじた。
保険医のいない保健室から探しだした救急箱をもとあった場所へ戻しながら、チラリと矢沢に視線を向ける。
血の滲む包帯をみながら、一つ小さくため息をついた。
……指、結構深く切れていた
痛くないわけないのに、はじめ、アイツは「大丈夫」だと言った。
心配をかけまいとするのは彼女の性分か。血のでた指を押さえ、笑っていた。
思い出すだけで、自然と眉間に深いシワが刻まれる。
このまま嫌がらせ犯を放っておけば、矢沢は傷だらけになる。
そうなっても、大丈夫だ、と言って笑うのだろう
『…ねぇ阿伏っちゃん』
「ん。何だ」
『カッターのこと、神威や云ちゃんには言わないでほしい』
突然の矢沢の言葉に、俺は片付ける手を止めてくるりと矢沢に体を向けた
「云業はともかく団長にもか?」
『うん』
なぜ
俺がそう尋ねるより早く、矢沢が先に口を開いた
『心配かけたくないし。それにこんくらいの傷、言うほどのもんでもないじゃん?』
「……」
『しかも神威なら「俺が舐めたら治る」とか言いそうだし。あいつのセクハラは現実に起こしかねないからね!』
そう言いながら、あはは、と笑う矢沢
胸に針が刺さるような痛み
上っ面だけの笑顔に、阿伏兎は表情を変えずに矢沢に向かって歩いた
『だから…』
「…矢沢」
『ん?なに?』
ぽすっと矢沢の頭に手を置いた
「無理に笑うな。泣きたいなら泣けばいい。」
『な、何言って…』
「今なら俺しか見てねぇ」
そういいながら、ぽんぽんと頭を撫でてやれば、
矢沢の目から、一筋、涙が零れた
『ぅ…ッ……うぅ〜…っ』
「…お前さんも、バカみたいに強がるねぇ」
『バカ…っていうな…ッ…ヒック…』
「本当は痛かっただろ、指」
『くそ痛いわッ!!……ぅう…』
「…安心しろ、もう怪我なんてさせないさ。お前さんには春雨最強の3人がついてんだ」
『……頼りない』
「もっぺん言ってみろ、このスットコドッコイ」
『嘘だよ……ありがとう…』
そう言って、矢沢は笑った
久しぶりに本当の矢沢の笑顔を見た気がした。
零れた涙と
阿「悪いな、矢沢」
『…へ?…ッなにが…』
「全部聞こえちゃった☆」
『!か、神威っ!!!』
「保健室のベッドで寝てるってメール入ってな。殴り込みにいかなかったのか?」
「いちいち行くのが面倒だったからさ。
校内で目に入った奴ら片っ端から殴ったからスッキリしたよ」
『「うわ」』
「てか阿伏兎さ、憂の泣き顔今すぐ記憶から消して?じゃなけりゃ、俺が消してあげようか?」
「エ」
# # #
お父さんみたいな阿伏兎。こんなお父さんすごくほしい。
神威は完全にただの嫉妬\(^o^)/