過去拍手小説
□ポッキー
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【坂田銀時の場合】
両手にスーパーの袋をぶらさげて、自宅兼仕事場である万事屋へと帰宅した。
『ただいま〜』
下駄を脱ぎながらそういえば、「おかえり〜」と返ってきた気怠そうな声。またソファーに寝そべっているんだろう。
居間へと顔を覗かせれば、私の見解通りの光景が広がっていた。本当にマダオ。
『いちご牛乳、いま飲む?』
「飲む。サンキュ…ってお前、色々買いすぎじゃね?」
こちらに視線を向けた銀ちゃんは私の両手の荷物を見てうわ、とでも言いたいような表情を浮かべた。
『仕方ないでしょ〜っ?冷蔵庫空っぽだし。銀ちゃんに任せてたら神楽ちゃん飢え死にしちゃうじゃん』
「俺そんなに駄目な奴?」
『うん、何を今更』
私の言葉にわかりやすく肩を落とした銀ちゃんを放って、買ってきた野菜や冷凍食品を冷蔵庫へいれるため、居間から台所へと向かう。
ダイニングテーブルへ袋を置いて荷物整理をはじめれば、銀ちゃんも台所へと入ってきてガサガサと買ってきた袋を漁り始めた。
どうやら手伝ってくれるらしい。思わず口元が緩む。
「って。ちゃっかり自分の菓子も買ってんじゃねーか。いちおー俺の金よ?」
『いーじゃんケチ』
バレたか。
誘惑に負けて買ってしまった赤い箱のポッキーを持ってこんなのばっか食うから太るんだ、と言う銀ちゃんをとりあえず殴ってやった。
毎日いちご牛乳を飲むくせに、銀ちゃんの体はまったく肉がつかない。お菓子を好む女子としてはとっても憎たらしい体質だ。
ふん、と鼻を鳴らして銀ちゃんから奪ったポッキーの箱をぺりぺりと開ける。袋から取り出したポッキーをかじれば、チョコの味が口に広がった。先ほどの腹立たしさなんてなくなるくらいの美味しさ。
『おいしっ』
「うまそう。ちょうだい」
『結局貰うんじゃん』
「俺の金だもんね」
『ちぇっ』
人にデブって言ったくせに食べるのか。デブれ天パ。
(銀ちゃんのお金なので言ったら盗られる気がしたので)口には出さずしぶしぶポッキーをあげた。
全部食べられる前に食べちゃおう。
そう思って残りのポッキーにガッついたのが悪かったのか、ポッキーを手にした銀ちゃんが私をみて黒く笑ったことに気が付かなかった。
「ん」
『は?』
「はやく」
ポッキーの端を咥えて私に顔を突き出す目の前の銀髪マダオ。
何を求めているのか、直感してしまった。
『イヤイヤイヤ、意味わかんないからね』
「分かってる癖に。ポッキーはこれしなきゃ始まらないでしょー?それにこのポッキー誰の金で買ったと思ってるワケ?」
・・・この野郎。
ニヤニヤとしながら私の持つポッキーの箱を指で軽く叩いた。断るなら、きっと箱ごと奪う気だ。
『な、なんであんなさっむい行為やんなきゃ、』
「早くしねぇと力づくでこれ以上のことヤっちゃうからな」
いつの間にか私の体は銀ちゃんの腕によってホールドされていた。勿論、逃げられる力で捕まえるほどこの男は優しくない。
自分からやらなければならないという恥辱。唇を噛んで睨み付けてやれば、弧を描いた唇が少しだけ近付いた。
ああ、もうどうにでもなれ。
『クソ天パ覚えてろ』
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