アリスと暴君兎

□あれ?なにしてんの?
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『なんで神威と2人きりなの。阿伏っちゃんと云ちゃん呼んでよ』

「あの二人、今日予定あるんだ。だから今日は俺とデートだよ」

母に見送られ、にこにこ笑顔を張りつけた神威に半ば無理やり連れてこられたのは、近所の商業施設。年末セールやら売りつくしセールやらで、どこのお店も多くの人でごった返していた。


…なぜこの時期にこんなところに連れてきたんだ。
人混み苦手だろうにこの男は。

現に、さっきからヤンチャな人と肩がぶつかっては「どこに目つけてるの?その二つ、機能してないならいらないよね?」なんて絡む始末。どこの半グレだよ。

すみませんすみませんとペコペコし、三つ編みにを引っ張りつつ足早にその場から華麗に去る。厄介事を回避する術は阿伏っちゃん直伝である。

なるべく後ろは振り返らず。絡んだ相手からいい感じに距離をとったところで、三つ編みごと神威を壁に押しつけてやった。

「憂からくっついてくるなんて、大胆だなぁ」

青筋を立てる私とは対照的に、ニコニコと私の様子を伺う目の前のアホ毛。…反応したら負け。ここは毅然とした態度で要件を述べる。

『次、あんなのに絡んだら、解散するからな』

「ん?さっきの奴らが怖いから手繋ぎたいって?積極的な女は嫌いじゃないよ」

『よーし帰る、もう帰る。せっかくの年末…だァっ!さわんな!ちょっ絡ませるな!ッッ!どわーーー!!!話を聞け!!』

三つ編みごと自身を押し付けていた手に、つつ、と手を這わせてきて、思わずその感触にギョッとしていれば、丸く無邪気な碧眼が私を覗き込む。

その僅か数秒後、これまでの経験上、ロクなことをしないと、本能的に神威から距離を取ろうと弾くように離した手を。私の動きを読んでいたと言わんばかりの慣れた手つきで、互いの指を絡ませるように捕らえた。

『こんの…男、は!離せ、、、!』

「諦めなよ、離さないから。さ、行こっか。今日はこれからだ」

引き剥がそうと、交互に絡められた指をジタバタと暴れさせるものの、どんな仕組みになっているのかピクリともしない。剥がれる感ゼロである。マジで指筋か、これが。

『…誰にも会いませんように……』

一通り暴れてみたもの、離す気はないなと確信した私は、学校の誰かと、顔見知りと、鉢合わせしないことを願う方向へと切り替えた。「理解が早いところ嫌いじゃないよ」と、アホ毛にニコニコ顔で言われた。嬉しくねーよ。

傍からみれば、仲良しこよし手繋ぎデート真っ最中のカップルかなにかだろうか。先程からすれ違う人々の視線がなんだか生暖かい気がする。こんなん、学校の奴らに見られようもんなら確実に、「神威夫婦」のできあがりだ。とんでもなく寒いカップルだ。そんな中で、あと数年も学生生活を送らなければならないと思うと身震いすらしてしまう。なんという生き地獄。

できるだけ第三者にあたえる印象を変えようとひとまず下顎をにゅっと出してみたが、
城之内女を連れて歩いている俺の立場を考えてよと、元ある位置に顎を戻された。

『…貴方がね?この手を離してくれれば万事解決なんすけどね』

「デートだっていったろ?手を繋いでなきゃデートじゃないよ。あと、次顎出して歩いたらその場で舌ブチこむからね」

どこに、とは言わないけど。
人好きのする笑顔を添えてとんでもねぇこと言いやがったぞ、と内心ツッコみつつ、『ふぁい…』と返事をしておいた。私の完全敗北である。


それからしばらく、神威はどこかのテナントに入る訳でもなく、ちらほらと開催されている催事に歩みを止めることもなく。ただひたすらにどこかへと向かう。彼の中でどうやら目的地は設定されているらしい。

……それにしても、この男、、手を繋いで歩くことにとんでもなく慣れていやがる。

正直、引き摺られて歩くことを覚悟していたし、ペットと繋がったリードを己のペースで引いて歩くワンマン飼い主タイプだろうと思っていたのだが。神威の足の長さについてゆけず、足を縺れさせることもなければ、すれ違う大勢の人と一度だってぶつかることもなかった。

歩調を合わせ、人とぶつかることのないコースを選別する。そして時折、「足、疲れてない?」とこちらを気遣う様。手慣れたエスコートにちょっとだけ、緊張してしまって、


────なんて訳にはいかず。

見たくも感じたくもねぇ女遍歴にぶっちゃけ引いた。


『…ねぇ、どこ向かってんの。私はどこまであんたにエスコートされりゃーいいの……』

「あともう少しだよ。んー…一応憂の短足を気にかけて歩いてたつもりだったんだけど、早かった?」

『むしろ違和感なく、躓くことも無く歩けてるんで?一周まわって快適なくらいですけど??あざーすって感じですが!!!!!』

「なら、そのまま大人しくしててよ」

嫌味全開の私の言葉は、恐らく神威に1ミリも響かなかったようだ。にっこりと微笑んで、今以上にきつく私の手を握りしめる。


傍からみた私は恐らく、とんでもないイケメンに連れられている女なのだろう。

先程からすれ違う女性陣は、神威が隣を通り過ぎたかとおもえば再度振り返る。


サーモンピンクの髪色と、それに負けないほど整った顔立ち。日本人離れした鋭く光る青い瞳が、より一層、神威の存在を際立たせ、見慣れない人からすれば、神威を目に留めない理由がない。

…黙っていれば、本当、とんでもなく整った顔立ちなんだよなぁ。

神威の顔面を凝視していれば、それに気付いたようで。歩みをとめずに私の方に視線をむけた。


「そんなに熱い視線を送らないでよ。このままホテルでもいこうか?」

『ほんと残念なイケメンだわ』

大きくため息をつく私に、歩みを進める足に急ブレーキをかけた。その動きに追い付けず、どん、と神威の背中に顔面ごと飛び込んでしまう。

ふわりと、普段の神威からはしない香りが、私の鼻腔をくすぐった。


「ん〜〜憂ってさぁ、いつまでたっても俺を冗談だと思っているよね」

『うっぷ…存在が冗談のあんたが何いって、』

ぶつかった鼻さすりながら、神威の体から離れようと1歩下がった私を、するりと大きな手のひらが、頬を覆う。

「憂が思ってるより、ずっと、本気だってこと。…どうしたら、」

無理やりに交わる青い瞳が、ただ真っ直ぐに私を見つめていて。いつもの様におちゃらけて、お調子者はどこにいったの?なんて口に出して言えないほど、真剣な視線を、私に向けていた。




あれ?何してんの?

『あ!あぶっ阿伏っちゃん!!!?』
「こんな公衆の面前でねぇ、へぇ・・・」
『う、云ちゃん!!私、浮気じゃないから!神威のことなんても1ミリも!!!』

「…チッ、ほんとおまゃ邪魔だよ。大人しく屋台のバイトに勤しんでなよ」



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