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□もう1人の話
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「蒼さん!一体、何処にいるんです!?」
普段冷静な彼からは想像がつかないほどの声。その焦り具合から、私の置かれた状況は非常によろしく無いということを思い知らされる。
『もうキッツっ・・い・・ハァ・・ッ』
「立ち止まらないで!クッソ・・!広すぎるんだよ!!」
どれだけ走ったか、詳しく覚えていない。けれど、既に肩で息をしていることから限界は近い。
スマホを片手に遠い遠い出口を目指してただひたすらに走り続ける私は、キラキラと闇に輝くパレードを楽しんでいる周りの人からみたら一体どういう風に映っているのか。そんなこと考える暇もないほど、必死だった。
───なんでこうなった?
ほんの数時間前までは、全力疾走する私に好奇の目を向け、すれ違う人たちと同じように楽しんでいたはずなのに。
仕事が忙しく、なかなか会えない彼からのお誘いで私たちはテーマパークへ来ていた。
久しぶりのデートということもあり、長蛇の列に並んで、ジェットコースターに乗って、アイスやランチを食べて。出来ることはなんだってやった。転げ回るくらい笑うことだってあった。
楽しくて仕方がなくて、明日からまた離れ離れになって、それぞれの仕事が始まる絶望感も忘れるくらい、この休日を全力で楽しんでいた。
その幸せが歪み始めたのは、辺りが暗くなってきたこともありオレンジや黄色の街灯が点き始めたとき。
安室さんがトイレへ行くために私の側を離れた。
近くのベンチに腰を下ろして彼を待っていたところ、黒い格好をした男性を追い掛けるように、一人の青年が私の目の前を通り過ぎた。
ポケットから転がり落ちた、このテーマパークのメインキャラクターのキーホルダー。思わずあ、っと声が出たものの、それに気付かず青年は走り去ってしまった。
無視をしようと思ったが、1度目についたそれを見ないフリをすることは、私には出来なかった。
渋々それを拾い上げ、彼の後を追った。「ちょっと落し物渡してくる」と、彼にLINEをして。
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