異世界的彼。

□第2話
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「手貸すヨ」

『たっ、助かります…!』

ザブ、と岸辺に片足を付ければ、神楽ちゃんが傘を持つ手とは逆の手を差し出した。

びしょ濡れのため手を借りるのは気が引けたが、滑る可能性もあった為、素直に手を借りることにした。

遠慮なく手を握れば、ダイレクトに感じる白く柔いの感触。…ア、誘拐したくなる気待ち分かりました。。まぁ神楽ちゃんを誘拐なんて返り討ちにされるんですけども。

握ったと同時に腕を引かれ、難なく川から上がることが出来た。女とはいえ、自分より身長が高く、更にはずぶ濡れの衣類で重さが増した私を軽々と引き上げるさまは、さすが夜兎である。


「おねーさん、名前はなんて言うアルカ?」

『…あ、佐伯です。』

「佐伯サン。それにしても見たことない格好ネ。一体何処から来たアルカ」

神楽ちゃんはびしょ濡れの私を下から上まで眺めてからそう問うた。

私の格好は、高校のジャージと黒いTシャツの元の世界でいう完全な寝巻き姿。

普通の江戸時代なら好奇に晒されていたであろう格好だが、天人蔓延るこの世界では着物以外の格好も比較的受け入れられやすいのか。神楽ちゃんもチャイナ服モチーフだし。


『と、東京…から。』

「トーキョー・・・聞いたことないネ。」

江戸ですからね。改称された江戸ですからね。

神楽ちゃんは「まぁ、小難しいことは銀ちゃんでいっか」と言って考えるのをやめ、酢昆布を齧った。

その様子にははは、と苦笑いしながら、ポタポタと水が滴る服を雑巾を絞る要領でギュッと絞った。天気が良いから早く乾くといいのだけど。


「佐伯サン、下の名前は?」

『え。し、下ですか』

コクン、と頷く彼女に驚きつつ、『千利です…』と小さく下の名前を名乗った。

「千利。下の名前のほうが呼び易いアルナ」

いやん!ぎゃわいい!

交わる青い瞳と、可憐な声で呼ばれた自らの名前にギュンと心を掴まれた。この世界に来て、漸く、ちょっと幸せだと思えました。

コホン、荒ぶる心を落ち着つかせる為に咳払いを一つ。


『…どうぞ、お好きに呼んでくださいぃ…』

ダメだ、完全にニヤけた。

そのあとも、敬語は辞めろだのなんだので、タメ口で話すヨロシなどと色々強制された。強引な美少女、き、嫌いじゃない。。。

元の世界に戻れた暁には、神楽ちゃんのフィギュア購入を心に決めたのであった。


「いつまでもその格好って訳にはいかないネ。ちゃっちゃと銀ちゃんとこ案内するヨ」

『よろしくお願いします!』

「早く行かないとメンドーな奴らが来るネ…」


メンドーな奴ら?

と、私が呟くより先に橋から声が降ってきた。神楽ちゃんの言う"メンドーな奴ら"の声が。


「チャイナ、その不審者お前の知り合いかィ」


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