Kernel.2

□プラトニックより確かな愛を
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朝の禅問答の最中、
クンビラモンが珍しく溜息を吐いたのに、
シェンウーモンは首を傾げた。
「クンビラモン。何か考え事かの?」
「――ハッ、
 申し訳ありませんシェンウーモン様!!」
主との禅問答の最中に
余所事を考えるなどとんでもないと、
クンビラモンは慌てて頭を下げたが、
シェンウーモンは優しくそれを制した。
「良い。お主にも、何ぞ悩みはあろう。
 良ければ、ワシに話して貰えぬかの?」
その言葉に、クンビラモンは
少し迷った素振りを見せながらも、
ポツリポツリと話し始めた。
「……その。
 オイラ、ヴァジラモンと
 付き合ってるんですけど、
 ヴァジラモンの奴、
 全然交尾してくんなくて。
 正直、欲求不満ってゆうか……。」
「そんなに、交尾したいものかの?」
「決まってるじゃないですか!!
 交尾は愛情表現の一つですよ?
 愛してくれてるなら、
 オイラとしてはシて欲しいですよ。」
「そうか……。
 しかしの、
 クンビラモン。
 交尾する事だけが
 愛情表現では無かろう?」
「そうですけど、
 長い事付き合ってるのに
 一度も手を出して
 貰えないなんて、
 本当に愛されてんのか
 不安になっちゃいますよ。」
「……そういうものかの?」
シェンウーモンの言葉に、
クンビラモンは
一つの仮定を導き出し問いかけた。
「まさかと思いますが、
 シェンウーモン様。
 もしかしてシェンウーモン様も、
 バイフーモン様と交尾
 した事無かったりしますか……?」
「無いの。そもそも、ワシでは
 バイフーモンの相手なぞ出来ぬよ。」
「……きっと、バイフーモン様も
 不安に感じておいででしょうよ。」
「そうかのぅ?」
「やっぱり、好きな相手には
 抱いて欲しいと思いますよ?」
「そういうものかのぅ……?」
「そうですよ。
 "じぶんとそれから
  たったもひとつの
  たましひと
  完全そして永久に
  どこまでもっしょに
  行かうとする
  この変態を恋愛といふ"。」
「……宮沢賢治、かの?」
「ええ、小岩井農場の一節です。
 "そしてどこまでも
  その方向では
  決して求め得られない
  その恋愛の本質的な部分を
  むりにもごまかし求め得よう
  とするこの傾向を性欲といふ"。」
「それも、
 宮沢賢治の小岩井農場じゃの。」
「ええ。恋愛って、
 そういうものだと
 思うんですよね。
 何処までも一緒に――
 寧ろ溶け合って
 一つになりたい欲求を、
 物理的に繋がり合う事で
 満たそうと思う。
 ……浅はかだと思われる
 かもしれませんが、
 オイラはそう思うんです。」
言って溜息を吐くクンビラモンを、
シェンウーモンは
ただ優しい眼差しで見つめた。


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