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□ホワイトX'mas
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【X'mas】
恋人がいるものは一緒にその日を共に過ごす12月の大イベント――…。
斎藤一は初の甘いX'masを一才下の後輩・雪村千鶴と過ごす予定でいた。
しかし口下手な斎藤は中々千鶴を誘うことが出来ず……
その日まで悶々と過ごしていた。
24日のクリスマスイブ――…。
今日で学校が終わった。
2人は待ち合わせをして一緒に下校中…。
斎藤は未だに千鶴を誘えずどうしたら良いかと悩み、無口が更に輪をかけ、一緒にいるにも関わらず口を開かなかった。
その様子に千鶴は心配になり、急に立ち止まる。
「…斎藤先輩…何処か具合が悪いんですか?」
「………」
「…もしかして…私何かしてしまいましたか…?」
「………」
口元に手を当て小さくぶつぶつ悩んでいる斎藤は千鶴の言葉をちゃんと聞いていなかった。
千鶴の中の不安は一気に広がる。
「……やっぱり一緒に居たいと云う私の気持ちは…ご迷惑…でしたよね…ごめんなさいっ…!」
無言のままの斎藤にペコッと頭を下げ、千鶴は泣き出しそうな顔で走っていってしまった。
――そんなことが起きたなど気づく筈もなく…。
やっと斎藤は千鶴を誘う気持ちの準備が整い、先程まで共に歩いていた千鶴の方を振り向き、緊張しながらも意を決して告げる――…。
「…ち、千鶴…実は……」
「…………」
隣の辺りを歩いていた千鶴がいない…。
一気に青ざめ辺りを見渡すが千鶴の姿は見当たらない。
「なっ!?一体何が起きたのだ!!」
事態が掴めず、珍しく取り乱す。もしや誘拐か、と更に顔色を悪くする。
その時、後ろから自分と同じ制服を着た2人の人物が近付いてくる。
「あっ、一くんだ!?」
「一くん、こんな所で何慌ててるの?」
沖田に平助の2人組だった。
斎藤のあたふたしている姿に首を傾げ何事かと近づいてくる。
「総司に平助か…。すまないが千鶴を知らないか!?」
「千鶴?」
「千鶴ちゃんなら泣きそうな顔して学校に走っていったよ」
「ほ、本当かっ!?」
「ちょっ、痛いよ」
「ま、マジだって!!何、何かあったのっ!?」
「じ、実は…」
沖田は斎藤の必死な姿に千鶴と何か合ったのだと勘づく。
「よく分からないのだ…気が付いたら千鶴が居なくなっていた…」
「ええーー!?なっ…、話しかける前に学校に行っちゃったからよくわが――っ!?」
話している平助の口を沖田が手で塞いだ。
その表情は何処か楽しそうにしている。
「千鶴ちゃん――確か、走りながら…斎藤先輩なんて嫌い!って言ってたかな」
ニコッと斎藤に満面の笑みを向け、隣で目を丸くしてモガモガと何か訴える平助にエルボーを食らわす。
「ほ、本当か…」
いつもなら沖田の言葉など聴かないが動揺のあまりか信じてしまう。
【嫌い】その単語がグルグルと回り頭を何かで殴られた衝撃がする。
その後斎藤は沖田と平助とどう別れたのか覚えていないが足だけは学校に向かった行った――…。
そんな落ち込んだ斎藤の後ろ姿を見て、やっと口が自由になった平助が沖田に問い掛ける。
「…総司、どうしてあんなウソ言ったんだよ」
「だってクリスマスに千鶴ちゃんとラブラブして過ごすんだよ。頭にくるじゃんっ」
沖田は黒い笑みを平助に向ける。その顔を見て思わず、うげっと頬を引きつらせ斎藤を可哀想に思う。
「――でも面白そうだから僕たちも行こっか」
やっぱりな、と平助はため息をついて2人は斎藤の後を追うのだった――…。
◆◆◆
その頃、教室に着いた千鶴は走ったためか額に汗をかきそれを拭った。
最近の斎藤とのやり取りを思い出す。
最近は一緒にいても何処か上の空で、斎藤が雑誌を見ていて話し掛けると慌てて隠したり、斎藤から話し掛けてくれたと思うと急に挙動不振になり顔を赤くして直ぐに去ってしまっていた。
何か気に触ることをしてしまったのだろうかと悩んでいたところ、さっきの無言での下校事件。
他に好きな子が出来てしまって、優しい斎藤の事だから中々言い出せないのだろうかと不安になってしまう。
「うぅ…斎藤先輩に…失礼なことしちゃった…」
自分の席に座りシュンと頭を垂れる。
そして鞄の中にしまってあった可愛くラッピングされた袋を取り出す。
「今さらこんなのプレゼントされても迷惑…だよね…」
そのプレゼントを抱き締め、視界が揺らいだ。大きな瞳からは涙が溢れそうになる。
「先輩…せんぱい…好きです…大好きです…」
「……そ、それは…本当…か…」
突如聞こえてきた方を振り向くと、今想っていた相手がいる。
いつもきちんとしている髪や制服を乱して汗をかいているのが離れていても分かった。
「せん…ぱい…どうして…」
「あっ…あんたが突然…いなくなった故…」
はぁはぁと息を切らし近づいてくる。
千鶴の瞳からはポロッと涙が流れた。
「な、何故っ…?」
「だっ、だって…」
「す、すまない…泣かないでくれ…」
そっと千鶴の小さな身体を抱き締め背中を優しく擦る。
斎藤の身体は走ってきたため熱を帯びていて一生懸命後を追ってきてくれたのだと嬉しくなり千鶴は斎藤の胸に頭を預けた。
「…すみま…せん…」
「謝るのは俺の方だ…。俺は千鶴に何かしてしまったのだろうか?」
「?い、いえ。…私こそ斎藤先輩の気分を害する事を…」
「皆目見当がつかぬが…」
「えっと……」
暫し抱き合ったまま静かな空気が流れる――。
「先輩は私の事…その…迷惑に思っているんでは…」
「何故そう思う」
怪訝そうな声が頭上から聞こえ、優しく抱き締めてくれている手に力が入ったのが分かる。
「その最近…先輩は…私と一緒にいてもあまり良いお顔をしていなかったもので…」
「………」
最近の千鶴といるときの自分を思い返す。
そして自分のしてきてしまった行為をはっと思い出す。
「……ち、違う!断じてそんなことはないっ!!」
勢いよく千鶴を見ると潤んだ瞳で自分を不安そうに上目使いで見上げている。
その可愛さに、うっと顔を赤めて視線を反らす。
「…あ、あんたと…一緒に過ごしたかった…」
「えっ?」
「クリスマスは…恋人と過ごす…ものと…雑誌に書いてあった…」
「……」
「どう誘ったら良いものか分からず…一人悩んでいた。不安にさせてしまったようで…すまなかった…」
「……クスっ」
「何故笑う…」
「だって…てっきり嫌われてしまったのかと思って…」
意味が分からず眉を寄せている斎藤をホッと見上げる。
「俺があんたを?…それこそあり得ぬな」
「っ!?……あ、ありがとうございます…」
はっきりと断言され、恥ずかしさから今度は千鶴が目を反らす。
その時ふと手に持ったプレゼントに気が付く。
「斎藤先輩…これ…受け取っていただけますか…?」
そっと斎藤にプレゼントを渡す。驚きのあまり目を丸くして、照れたように千鶴の手から受けとる。
「これは…手編みの…マフラーか…」
「はい…先輩はいつも寒い中朝から風紀委員の大変なお仕事をされているので…」
袋から白いマフラーを取りだし、嬉しそうに首に巻く。
「…ありがとう、大切に使わせて貰う」
「はいっ!」
互いに頬を染め微笑んだ。
「…あっ、先輩、見て下さい!雪が――」
窓を見ると白い雪がちらちらと降っていた。
「ホワイトクリスマスで…くしゅんっ!!」
千鶴はブルッと身体を震わせた。先ほど走ったときに汗をかいた為どうやら冷えたらしい。
「千鶴、もっとこっちに来い」
「せ、先輩っ…?!」
首に巻いた手編みのマフラーを自分と千鶴に巻きつけた。
「…!?す、すまない…!!」
頬を赤くした千鶴に気がつき、自分の行為に気がつき慌てて外そうとした斎藤の手に千鶴の手が重なった。
そして目と目が合い……
「こ、このままでも…良い…ですか?」
「…当たり前だ…」
互いに吸い込まれるように赤い顔を近付け――…唇が触れた…。
「千鶴…Merry Christmas――…」
「Merry Christmasです――…」
寒さなど忘れたのか教室には暖かい空気が漂う――…。
………
一方――…。
「なんか俺らバカみたいじゃない…」
「……今なら一くんを“ヤれる”気がする」
メラメラと教室の外で闘争心を燃やす2人のことなど全く気がつかない幸せいっぱいの斎藤であった――…。
end
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