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□X'masパーティー 前編
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私立薄桜学園――。


学園創立初めての
【X'masパーティー】なるものが開催されようとしていた。


何故初めてなのかと云うと――…。


今年入学してきた唯一の女子、紅一点の【雪村千鶴】がいるからである――…。


『俺の不甲斐なさから雪村くん女子独りで毎日大変だろう。それに何かと気苦労しているだろうし……。――たまには雪村くんに羽を伸ばして欲しい!』


――と云う大変心優しい理事長の近藤が提案した行事だった。


はじめその話を聞いた白衣の悪魔兼保険医(経理)の山南は予算の事などで色々と頭を悩ませ近藤に抗議をした。
……がいつの間にかこの行事を学園のイメージ向上に向けて巧く利用できるのではないかと考え、妖しげに眼鏡を輝かせた。




◆◆◆


そして12月24日X'masイヴ、当日――…。


普通なら今日で学校も終わり終業式後、恋人たちは甘い時を共に過ごす大イベントの日――。

しかし、元男子校という『薄桜学園』の生徒たちに彼女なるものがそんなにいる筈もなく――…。

可哀想な生徒たちは嫌がらずに、むしろワクワクと浮き足だって学園の体育館に集合していた――。


体育館の中では美味しそうな料理が次々と並べられ良い香りを室内に漂わせていた。

男子生徒はいつもの制服とは違い、パーティー正装を身に纏って参加、というオシャレな決まりをされた。
そして皆どこかソワソワと落ち着かない様子。
それは単に腹が減っているから、と云うわけではなく――…。


“学園のアイドル”【紅一点】を皆待っているからである。


今回の主役といっても過言ではない。


当の“千鶴”本人は全くと云って、そんなイベントや皆の気持ちなど知る由もなく――…。


現在、教頭の土方に理由も分からず連れていかれ案内された部屋に押し込まれて、独り黙々と着替えをしていた。


…………


突然土方に連れてこられ


『そこにあるドレスを着ろ』


と千鶴に一言告げ土方は部屋を出ていってしまった。


呆然としながら千鶴は土方に言われた通りドレスに手を伸ばし、それを見つめて瞬きを繰り返した。


――女子の正装とは“ドレスアップ”が基本――…。


既に用意されていたドレスを手に取ったまま暫し眺めて
『こんな素敵なドレスを私なんかが着て良いのかな…?』
と意味が分からないながら悩んだ結果、千鶴は着ていた制服を脱ぎ始めた。


ドレスは千鶴にとても似合っており清楚な可愛らしい薄いピンク色。胸元はフリルになっていて大きなリボンが付いていた。
肩は調節が出来るストラップタイプで何かを羽織らなければ素肌の露出が大分ある。
スカート丈は制服と似たぐらいの長さで白い足がすーっと出ていた。

そんな可愛いドレスを身に纏い、普段は着れない嬉しさから笑顔になったのもつかの間、急に何故か困った顔をしだした。

「ど、どうしよう……」

何故か鏡の前で背中をチラチラと気にしオロオロして自分を見つめる。


背中に手を伸ばす。
…しかしあと少しという所で届かない。

このドレスはファスナーが背中に付いているタイプの物。

千鶴は手を後ろに伸ばしファスナーを上げようと一生懸命頑張っていた。

だが千鶴の努力の結果…最後まで背中のファスナーに手が届くことはなかった。

これでは背中を見せて土方の前に出なければいけなくなってしまう。
そんなはしたない真似出来るわけがない。

誰かに頼めたらそれが一番なのだが女子は学園で自分独りのみ…。恥ずかしがりやの千鶴がどうあっても頼めるわけがない――…。

そしてこの状態に焦り始め、また手を頑張って伸ばした。


「こ、このままじゃ外に出られないよぅ……。どうしよう…――あ、平助くんに!?」

焦りすぎてか訳が分からなくなってしまった千鶴の頭に、ふと幼馴染みの平助が頭を過った。


『へ、平助くん、お願いがあるの!あのね……』

『――…ファスナー??…えっ!?ファ、ファスナー!?――無理っ!無理無理!!ぜ、ぜってー、無理っ!!お、俺、そ、そんなこと出来ねーからっ!!』

『へ、平助くーん……』


千鶴の頭の中の平助は真っ赤な顔をして物凄い勢いで逃げるかの様に走って行ってしまった……。

「……そ、そうだよね…。いくら平助くんが幼馴染みでもやっぱりこんなお願いされたら嫌がられちゃうよね…」

思い浮かんだ幼馴染みの平助に申し訳なさそうにぷるぷると頭を振り、甘えちゃダメと思い止まる。


次にいつも自分をからかって反応を楽しむ人物がふと思い浮かんだ。

「…沖田先輩…なら平気であげてくれそう…かな?」


『沖田先輩…!あの、お願いがあるんですが…』

『どうしたの千鶴ちゃん?――…ファスナーを僕に上げて欲しい?…へぇ、そうやって君は僕を試すんだ。ふぅん、別に良いけど千鶴ちゃんはこれから僕に“何をされても”良いってこと、だよね♪』

『えっ!?あ、あの沖田せん…ぱ…い…』


オモチャを見つけた子供みたいに嬉しそうな笑みを見せ自分に近付いてくる沖田を想像し、千鶴ははっと我に返る。

「だっ、ダメダメ!先輩は絶対に面白がってまた私をからかうもんっ!!」

ブンブンと頭を振り遊ばれるのはイヤイヤと拒否をする。


そして次に常に真面目でいつも自分を気遣ってくれる先輩が思い浮かぶ。

「斎藤先輩なら…」


『斎藤先輩…あの…その…お願いがあります…』

『――…なっ!?何故…!!
…お、俺があ、あんたのファ…ファ、ファスナーを――…。
…じょ、女子がむやみに男に、は、肌…肌を!み、見せるなど…あんたを見損なった!…失点5…いや10を付けさせて貰うっ!!』

『そ、そんな〜…』


想像の中の斎藤に見損なったと言われ思わず落ち込む千鶴。
尊敬している斎藤に軽蔑された眼差しで見られた…と肩を落とす。

「そんなはしたない事…斎藤先輩に頼めない…。……そうだ!薫!!」

普通なら一番頼りやすい兄の存在をやっと思い出した。


『か、薫…実はね、お願いがあるんだけど…』

『――…何、お前こんなことも出来ないの?相変わらず鈍臭くて俺と双子とは思えないね。…まあ、やってやらないことはないけど……俺の言うこと、聞いてくれるんだよね…』

『え、遠慮します……』


口角を上げ不敵に笑って近づいてくる兄を想像し身をブルッと震わせる。
どんな事を言われるか分かったものじゃない、と薫にお願いするのも断念した。

「うぅ〜…」

このままでは部屋から出られない、と千鶴は半ば半泣き状態に陥る。


――そんな時ドア越しに自分を連れてきた声が話しかけて来た。


「――おい、着替えは終わったか」

「は、はいっ!」

思わず勢いよく、はいと返事をしてしまい近くにあった薄いストールを肩からかけ背中を隠した。

土方は千鶴の返事を聞いてからドアを開けた。

「ったく。いつまでかかってんだ?皆待ちくたびれてる…ぞ…」

「す、すみません…」

「…ほお、似合ってるじゃねえか」

「えっ?」

土方の思いがけない言葉を聞き千鶴はきょとんと思わず土方の瞳を見つめた。

自分の呟いた言葉の意味を理解していない千鶴に土方は小さくため息をつき、少し目元を赤く染め…

「…ドレス似合ってるじゃねえかって言ったんだよ。二度も言わせるんじゃねえ…」

「…っ!?あ、ありがとう…ございます…」

ドレス姿を土方に褒められ、驚きと羞恥が混ざった千鶴は下を思わず向いてしまった。

「――ほら、いくぞ」

「は、はい!」

土方に連れられ千鶴は内心ドキドキしながら部屋を後にした。





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