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□X'masパーティー 前編
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――土方、原田、永倉の3人は無言のまま歩いていた。

「………」

「「………」」

一向に話をしない土方に原田がついにしびれを切らし口を開けた。

「…なあ、土方さん。そろそろ教えてくれねえか?」

「左之の言う通りだぜ!一体急に引っ張り出して何なんだよ!?せっかくのご馳走が冷めちまう!」

先頭を歩いていた土方が急に止まり2人に視線を向けた。

「…あいつが来る」

「“あいつ”?」

「もしかして“風間”の事か?」

ちっ、と舌打ちをして懐にしまっていた煙草を取り出し、火をつける。

「ったく、総司1人でも面倒なのにあいつが来たら余計面倒事が増えやがる」

「まあ確かにな」

「どういうことだ?」

1人分かっていない永倉を無視して2人は会話を続ける。

「だがよ土方さん、そんなのいつものことじゃねえか。
…もしかして、今日のX'masイベント…風間が何か絡んでんのか?」

「…原田、お前は本当に扱いづれぇよ」

「ははっ、それはお互い様だ。…で、どうなんだ?」

土方は煙草をふーっとふかして空に浮かぶ煙を見つめながら口を開いた。

「今回の主催者は近藤さんだが、資金を出したのは…風間の野郎なんだ」

「はあ!?」

「なっ!?一体どういうことだよ!?いくら貧乏学校だからって――」

「話を勝手に進めたのは…山南さんだ。近藤さんはこの件についてまだ知らねぇ」

「…山南さん、か…」

ああ、と目を瞑りながら3人は影の支配者を思い浮かべ、ため息をついた。


学園の経理の山南はパーティーを開くのを了承はしたが、やはり学園にそこまで出せるだけの資金は無く――。


風間と“ある条件”で交渉し、それと引き換えに資金を出して貰った。

その事態を土方が知ったのはつい先ほどの事で今更やめることなど出来る筈もなく…。


「――で、その条件とは一体何なんだ?」

「………」

「おい、今更言わねえなんて事しないでくれよ」

2人に詰め寄られ土方は大きなため息をついた。そしてしかめっ面をして――。

「…雪村とダンスをすることだ」

「「ダンス!?」」

「ああ…」

「って、たかがそれだけの事で金を出したのか!?」

「…ああ…」

「気持ちは分からなくはないが…流石にそれはやり過ぎだろう」

“あいつ馬鹿じゃねえのか”と云った呆れ顔で2人は土方を見つめた。

「んな目で俺を見んじゃねえっ!…はぁ、どうやら奴はあの“伝説”を信じてるみてぇなんだ」

「“伝説”?」

「…X'masに好いてるもん同士がダンスを踊って口付けをすると、2人は一生幸せに結ばれ――」

「「ぎゃはははは!!」」

土方の説明の途中に原田と永倉はお腹を抱え土方を指さしゲラゲラと笑いだした。

「な、なんだよ、それっ!」

「んなの信じてんのかよ!や、やべぇ、腹がいてぇー」

「…俺だって信じてねえが色々と面倒事が起こるから嫌なんだよ!!」

いつまでもバカ笑いをする2人に苛立ち、土方は逆ギレかのように眉間に皺を寄せて怒鳴り出す。

「あー、笑った笑った。で、どうすんだ?」

「ようは千鶴に近づけさせなきゃ良いんだろ?」

「ああ。…だがな、それだけじゃねえ。“あいつ等”にも知られねえようにしなきゃならねえ」

「あいつ等か…確かにな」

「千鶴ちゃんの事となると目の色変わるからな」

「総司なんかに知れたら事がでかくなる」

「まったく千鶴も大変だな」

「――それに風間の野郎を騙して違う場所を教えておいたのに…奴がこの場所に気づいちまった」

「げっ、じゃあかなり怒ってるじゃねえか!」

「ああ、やつの事だ。何を仕出かすか分かったもんじゃねぇ」

「だな。じゃあ今から作戦会議だな」

こくんと頷き、教師3人は可愛い紅一点の生徒を守る為に作戦会議を開いた。




◆◆◆


――“あいつ等”こと問題の生徒達は円を描きコソコソと話をしていた。


「…ちょ、それ本当なのか?山崎くん!?」

「ええ。山南先生には口止めされてましたが…」

「風間がねえ…」

「おかしいと思っていた」

「どういうこと?一くん?」

「つまりこういうことだよ。この学園にそこまでの資金がある筈がない。なのにパーティーを開く。で、何かの条件で風間に資金を出して貰った……」

「はい、その通りです」

「あいつどんだけ金持ちなんだよ!」

「あの風間が動くなんて、きっと【あの子】が絡んでるよ」

「…雪村か…確かに。親切心の欠片の微塵もなく自己中心的なあの風間が快く学園に資金を出すわけがない」

「うわっ!一くん何気にひでぇ…」

「風紀委員と生徒会は仲が悪いですからね」

「で、山崎君。肝心の千鶴ちゃんのことが抜けてるよ」

「………」

「そうだよ!千鶴のこと知ってんなら話してくれよ!」

「山崎、俺は風紀委員として――」

「わ、わかりましたよっ!で、ですから殺気を出して近づいて来ないで下さい!!」

千鶴の千の字も語らなかった山崎だが3人に殺気を出され追い詰められてしまい、渋々口を開いた。

「――ゆ、雪村くんは…学園長と共にいます。なので安全――」

「それは知ってる。近藤さんは強いからね」

「風間は雪村を何故条件に出した?」

「そ、それは…」

「山崎くん、吐いちまった方が身の為だぜ」

「…くっ。…じょ、条件は…」

「「「条件は!?」」」

「…だ、ダンスです…」

「「「……ダンスっ!?」」」

「はい…」

「ダンスって何だよ!?」

「山崎くん、ふざけてるの?寝言は寝て言いなよ」

「山崎、俺は――」

「ああ!もうっ!!この学園では恋人同士がX'masにダンスを踊って“キス”をすると2人は一生幸せに結ばれる、っという伝説があるんです!」

凄い勢いで語った為、はあはあと息を切らし自分に言ってしまった言葉にハッと我に返り、頬を少し赤くして呆然と自分を見てくる3人と視線を反らした。

「なっ!?」

「き、キス…」

「へぇ〜」

真っ赤になる者、驚き目を見開く者、目を細めて楽しそうにする者。様々な反応をして山崎の言葉の意味を考える。

「で、では…自分はまだやることがあるので…」

嫌な予感がして山崎はその場を去ろうと背を向ける。だが…。

「山崎くん、自分だけ知ってて黙っていようとしたんだ♪」

「山崎くん…もしかして…千鶴の事…」

「なっ!?ち、違います!!」

「山崎、あんたもその類いか…」

「さ、斎藤さん?!目が座っています!!」

「1人抜け駆けは良くないよね☆」

「知らなかった…山崎くんまでとは…」

「風紀委員として全力で雪村を守らなくては…」

「え…あの…皆さん、落ち着いてくだ……ええーー!!」


山崎の虚しい雄叫びが体育館に響いたのであった……。






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