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□X'masパーティー 後編
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――冬の寒空の中、外の渡り廊下からカツカツと2つの足音が鳴り響く。
1人は白いスーツを身に纏い、1人は膝上の少し短い丈の薄ピンク色のドレスを着ていた。
スーツの主は風間千景、そして可愛らしいドレスを着ている人物は雪村千鶴。
冷えた風間の手に強引に腕を引っ張られ千鶴は慣れないヒールに戸惑いながら歩いていた。
だが風間はと云うと、いつも自身が歩く歩調とは違い千鶴が転ばないようにこれでも千鶴に合わせて歩いてくれていた。
普段は俺様の風間だがやはり惚れた女には優しい態度。
そんな風間の優しい心遣いに色恋に鈍い千鶴が気づく筈がなく眉を下げ困った顔をし、転ばぬように気を付けながら歩いていた。
横から見える風間の顔はいつもと同じく整っており、少し冷たい印象がある。
しかしいつもより血色が悪く、鼻の頭は赤く、唇は少し青くなっていた。
千鶴の掴まれている腕からは風間の手の体温が伝わるがやはり冷たい――。
どれぐらい外にいたのだろう、とその横顔を見つめながら疑問に思っていると、ふと風間がこちらに視線を向けた。
「さっきからなんだ。そんなに見つめてきて。ついに我が嫁に嫁ぐ決心はついたか」
「っ!ち、違いますっ!そんなんじゃありませんっ」
「ふっ、そんなに熱い視線を向けてきて良くそんな事が言えるな」
「熱い視線?…ご、誤解です!私はただ風間さんが……」
気まずそうに千鶴は視線を空に泳がせ言葉を切った。その様子に足を止め千鶴を真っ直ぐ鋭い視線で伺う。
「…俺がなんだ、と云う」
「…そ、その…こんなに冷えて…どうしたんですか?」
「そんな事か。お前が来るのを待っていてやった」
「待っていて、って……い、いつ私が通るのかも分からないのにですか!?」
「まあな」
「…!!」
こんなにも身体を冷やして自分を待っていたと告げられ、千鶴は全身に熱が伝わるのを感じた。
(な、なんだろう…胸がドキドキする…)
「どうした、突然黙って」
黙る千鶴の様子にふっと笑みを見せた風間に千鶴はカァーっと頬に熱が集まるのを感じてパッと顔を反らした。風間に掴まれている部分が熱い…。
「…か、風間さん、お願いです!そろそろ離してください!」
「離したらお前は逃げるのだろう」
「…っ!」
図星を突かれ思わずぐっと押し黙る。
「………」
風間の事は別に嫌いではない。
ただ強引な態度で、初めて出逢ってからいつも逢うと『嫁になれ』と言われ続け、風間本人は至って真剣だが千鶴にして見れば反応を面白がられ、からかわれていると思っている為どう対応したら良いか分からず困ってしまう。
それに土方たちには『風間に近付くな』と耳がタコになるほど言われており千鶴は素直にその言い付けに従ってしまっていた。
『このままどうしたら良いのだろう』かと悩んでいたとき千鶴は身体をブルッと震わせた。
「……」
それを感じ取った風間は千鶴の腕から手をふっと離した。
「え…?」
さっきは【離さない】と言っていたのに、あれ?と疑問に思っていると隣から着衣の擦れる音がし、人肌の温かい感触が千鶴の肩にふわりと触れた。
突然の事に驚き、肩に視線を向けると、それは風間が今着ていた高そうな白いスーツがかけられていた。
「…あの、これは…」
「羽織っておけ。そんな格好では風邪を引く」
「ーーっ!!…あ、ありがとう、ございます」
思いがけない風間の優しさに千鶴の胸がドキッとまた跳ね上がった。
「なんだ、その顔は」
「えっ?」
「嬉しそうな顔をしている。やはり俺の妻になる気になったか」
「ち、違います…っ!からかわないで下さい!!」
「ふっ」
まるで勝ち誇ったように自慢気な笑みを浮かべ千鶴を見下ろす。
その態度に千鶴も負けまいと意見を述べる。
「…その…風間さんはこういう事はしないと思っていました」
「…お前はまだまだ俺を理解しておらんな。俺はお前にしかこんな事はやらん」
「?…えっと…それは、どういうことでしょうか?」
「………相変わらず鈍いにも程がある」
バカにされたと思い千鶴は少しムッと唇を尖らし、負けまいと風間に視線を合わせた。
「そ、そんな事ありません」
「ふっ、そう直ぐむきになるな。せっかくのドレスが台無しだぞ」
「え、あっ…!?」
自分がドレス姿だったことを思いだしニヤニヤと意地の悪そうな笑みを向けてくる風間につい恥ずかしくなり、千鶴は咄嗟に肩に掛かっている風間のスーツごと己の身体をパッと手で隠した。
「ふっ、今更隠してももう遅い」
「うぅ〜〜っ!!」
羞恥で唸り声を上げ瞳を潤ませ頬を朱色に染めた。
そんな千鶴の様子を見た風間は口元を手で覆い…
「やはり煽っているのか…」
と小さく洩らした。
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