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□X'masパーティー 後編
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一方、近藤から連絡を受けた土方たちは珍しく焦りの色を見せながら走り回っていた――…。


「土方さんよぉ、千鶴ちゃん大丈夫なんだろうな!?」

「分からねえが…奴の事だ。まだ手は出しちゃいねぇと思う」

「確かに。風間の事だから何かやるんなら土方さんの目の前でやると思うぜ」

「「………」」

「って、それも困りもんだがな…」

「ちくしょー!千鶴ちゃんが何事もなく無事なのを祈って見つけたら風間のヤローをぶん殴ってやる!」

ふんっと鼻息荒く闘争心剥き出しにしながら走る兄貴分な永倉に2人は頷き、土方・原田もネクタイを弛めて更に走り出した。




………




その頃、生徒たちも土方からの連絡を受け、X'masに似つかわしくない木刀を片手に走っていた――…。


先頭を走る平助が怒りを露にして吠える。

「ーーっとに風間のヤロー!!マジで許せねー!!」

せっかくのX'masイヴに2人きりになれなかったのが悔しい。
だかそれだけではない。風間にまさか拐われるなんて思ってもみなかった出来事が起きてしまい自分が傍にいなかったことを深く後悔していた。

「僕も今日は平助の意見に同意見だね」

「ああ、右に同じく、だ」

いつもと変わらない態度の沖田と斎藤だが、やはりどこか違う。
2人とも見えない怒りを己の中に隠し持っていて、いつもと同じ様子が逆に恐ろしい。

そんな3人とは対照的に山崎は何処か落ち着いた態度をして沖田、斎藤を凝視した。

「…ところで沖田さん、斎藤さん…手に持っている物は……」

2人が持っている“モノ”が気になって仕方がない。一体いつの間に手に入れたのだろうと疑問が頭を過る。

「見てわからないの、山崎くん。ただの木刀だよ」

「ただの…」

サラッと片手に握る木刀を山崎に見せつける沖田。その姿に山崎の顔からはサーッと血の気が引く。

「山崎、心配するな。ただの威嚇だ」

「心配するなって…斎藤さんはそうかも知れませんがもう一名はそんな風に全く見えませんよ…」

あはは、と黒い笑みを張り付けて“もう一名”は前を走る。

「…って総司っ!!何で俺の後ろを走るんだよっ!めちゃくちゃこえーってっ!!」

この場にいない風間に対しての怒りの矛先を沖田は平助に向けた。そしてその様を黙って見守る斎藤と山崎であった――…。




………




その時薄暗い中、大小の2つの影が沖田たちの目に映ってきた。

その影とは今必死に探していた愛しい【千鶴】。
――そして【風間】の2人であった。

何やら千鶴は顔を赤くして潤んだ瞳で余裕綽々と見つめてくる風間を睨んでいた。

その無事な姿に一同はホッと胸を撫で下ろす。…が、直ぐに風間に対しての怒りに変わった。

何故かこの寒い中、風間は上半身シャツ姿でいる。
千鶴はと云うと、白い男物のスーツのジャケットを羽織り一生懸命手で押さえ、ジャケットの下からは細く白い脚を覗かせていた。

その姿にイラっとした一同は、直ぐ様風間に突進していき【威嚇】と言っていた筈の木刀をおもいっきり振り上げた。

「風間…千景っ!!」

「覚悟、してよねっ!!」

「風間ー!お前千鶴に何しやがったー!!」

3人は一斉に風間に飛びかかる。しかしあまりの殺気立った様子に気がつき、風間は己に向かってくる木刀を寸前のところで全て避けた。

「………」

その大人気ない3人の行動に自分が冷静になるを得ない事態になった山崎は呆れながらも、その凄さを目の当たりにして息を飲んだ。

千鶴は突然の3人の登場に驚き、上擦った声をあげた。

「へ、平助くん?!沖田先輩に斎藤先輩、それに山崎先輩っ!?」

どうしてここに、と大きな瞳を見開き驚く千鶴。

一方風間は千鶴との貴重な2人の時間を邪魔され、一気に不機嫌なオーラを沖田たちに出し、切れ長の鋭く紅い瞳でキッと睨んだ。
だが彼らはそんな睨みなど臆することなく木刀を構え直し笑みを向ける。

「なんだ、貴様らは。…誰かと思えば土方の犬か」

「嫌だな〜、僕は土方さんの犬になった覚えはこれっぽっちもないよ」

「俺だって!土方さんの犬じゃねえ!!」

「「……」」

「み、皆さんどうしてここに?」

状況が理解できず、あわあわと沖田たちと風間を交互に見やる。
ニッと片方の口角を上げて平助は千鶴に近づき背に庇う。

「千鶴を助けに来たに決まってるじゃんっ!!」

「平助くん…」

平助に続き、風間との間合いを取りながら沖田、斎藤、山崎も千鶴の傍に来て何もされていないかを確かめる。

「君ってば何で風間なんかと一緒にいるの?君の居場所は僕の隣でしょ」

「お、沖田せんぱい…」

「総司の隣うんぬんは聞かなかったことにする。…それよりもあんたが無事で良かった…」

「斎藤先輩…」

「ケガはないか雪村くん?…本当に無事で何よりだ」

「山崎先輩…」

各々が無事な千鶴の姿にベタベタと触れ、その有り様を静かに見ていた風間の額には青筋が浮かんだ。

「貴様ら、我が嫁との逢瀬を邪魔しおって――…覚悟は出来ているのだろうな」

こちらも何処からかスッと木刀を取り出し、殺気を体から発する。

「ふぅん、4対1でも向かってくるなんて、やっぱりバカなのかな」

「バカなのは“貴様ら”だと言うことを思い知らせてやる」

今日がX'masイヴだというのに互いに殺気を出し睨み合う。

ジリジリと間合いを縮めていったその時、聞き慣れた怒声が皆の耳に痛いほど響いた。

「てめぇら!!何してやがる!!」

「げっ!土方さんっ!!」

「チッ…」

鬼の形相でこちらに向かってくる土方に一同ギクッと身体を震わせ固まる。その後ろには原田、永倉も一緒だ。

「あ〜ぁ、つまらないの。折角この学園から生徒会長を抹殺しようと思ったのに」

「…総司、何気に怖いこと言うな」

「まっ、総司らしいがな。ところで千鶴、大丈夫か?」

原田は直ぐに千鶴の傍に歩み寄り、千鶴の頭から足の先まで無事かを確認する。

「は、はい。大丈夫ですよ?」

皆の対応が必ず大丈夫かと安否を確認してくるのをどうしてだろう?と疑問に思う。

「土方さん、何で良いところで来ちゃうんですか?」

「部活動以外で木刀を振り回すんじゃねえ!っていつも言ってるだろうが!!」

「でもよ、先に千鶴を拐ったのは風間だぜ!!」

「拐っただと…。人聞きの悪いことを抜かすな。我が嫁をどう扱おうが俺の自由だ」

「「嫁じゃねーっ!!」」



土方たちの登場に事態は更に悪くなる一方。
そんな事になってしまって千鶴は悲しい顔をしてしまった。


折角のX'masイヴ…。
楽しく皆で過ごせるとこっそり思っていた。

それに良く分からないが土方が用意してくれた可愛らしいドレス。嬉しい筈の特別の日なのに皆がいがみ合っている。

千鶴は苦痛な面持ちをして思わず胸元においてある手を強く握りしめた。

「雪村…どうした?何処か痛むのか?」

「斎藤先輩…そうじゃないんです…」

「なら何故そんな顔をする」

「…何故だか、とても悲しいです…」

千鶴のその『悲しい』という言葉に、はっと一同振り返る。


先ほど嬉しそうな笑みを向けて楽しみにしてくれ、と告げてくれた近藤。

照れ臭そうにドレス姿を似合う、と褒めてくれた土方。

沖田、斎藤、平助、山崎、原田、永倉に至っては自分を心配してわざわざ駆け付けて来てくれた。

そして風間の優しい一面を知ってしまった――…。


何故か自分のせいで皆が傷つこうとしている。
それが凄く悲しい――…。


自然と涙が込み上げてきて視界が揺れる。そして消え入りそうな声で千鶴が囁いた。

「…ごめん…なさいっ…」

その様子にバツが悪そうにお互い顔を見合わせる。

「…お前が悪い訳じゃねえから、泣くな」

「そうだよ、千鶴ちゃん。悪いのは何で教頭になれたのか分からない土方さんだよ」

「何でだよっ!!」

「雪村、あんたのせいではない。だから泣かないでくれ」

「そ、そうだよ!千鶴は何も悪くないってっ…!!」

「千鶴、折角の可愛い顔が台無しになるぜ」

「うわっ!こんな状況でよく、んな台詞が出てくるな。さすが左之だぜ…」

「女子に好かれるにはあのような台詞をサラッと言わないといけないのか…」

「………」

皆泣きそうな千鶴に近づく。
ただ独りを除いて――…。





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