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□星に願いを、君に想いを
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「―――…はぁ……」



先程から無意識に深い溜め息を吐くのは、とある事情から男装をしている雪村千鶴その人。


洗濯を終えて空を見上げては溜め息一つ、掃き掃除の途中で空を見上げては溜め息一つ。

物憂げなその表情は誰かが姿を現すとパッと消え失せ、いつもの様に笑顔を作る。



しかしそんな少女を物影から悩ましげに見詰めている男が居るのを、少女は知る由もなかった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「―――…おいおい、何だこりゃあ……」




開口一番、土方が発したのがこれだ。

その表情は険しく、声は絶望を通り越して呆れ声。



昼の巡察から戻って来ると、何故か自室である副長室がめちゃめちゃになっていたのだ。


そのめちゃめちゃ具合も部屋を物色された類いではなく、中で斬り合いでも行われたのではないかと疑う様な、障子や襖までもが穴が開いていたり引き裂かれていたり等、酷い有り様だった。



そして室内に無数に散らばっている、それ。


「…笹の葉?」












「―――おい!!!何だって俺の部屋があんな――……」



広間に駆け込んで来た土方は中の様子に眉を潜める。

「何してんだぁ!!?お前等…」


広間では新選組幹部達がウンウン唸りながら、筆を片手に固まっていたのだった。



「あ、土方さんおっ帰り〜」

「副長、お疲れ様です」



平助と斎藤に「おう」と応えて広間を見渡せば、監察方の山崎や島田までもが悩ましげに筆を手にしている。



「見てわかりません?
短冊に願い事を書いているんですよ」

「短冊だぁ!!?」


「局長命令なんです。僕達だけじゃなくて、平隊士もみんな書いてますよ」

沖田の発言に土方は更に眉を潜める。


「局長命令だと?俺はんな事聞いてねーぞ」

「そりゃそうですよ。土方さんが巡察に行ってる間の出来事ですから」


「あぁ!!?」

「どうせ土方さんの事ですから、近藤さんが七夕やりたいって言っても『くだらねぇ』とか言って一蹴するじゃないですか。なので土方さんには巡察に行ってもらってたんです」

「ちょっと待て!俺はてめぇが重大な用事があるとか言ってきやがったから、代わりに一番隊を連れて巡察に行ってたんだぜ?」

「重大な用事ですよ。七夕で使う竹を取りに行ってたんですから」


「―――…竹、だと?」


ピクリと頬を引き吊る土方からは殺気じみたものが発せられる。


「…そ、そういや土方さんさっきさ、なんか慌ててなかったか?」


不機嫌さを醸し出した土方にビクリとしながら話題を変えようと、永倉が土方が駆け込んで来た内容を問えば、土方からははっきりとした殺気が立ち込める。



「巡察から帰って来たら何故か俺の部屋がめちゃめちゃになってた上に笹の葉が散らばってたんだが、どういう事か説明してもらおうか!!?」


広間内の全員がビクリと肩を竦める中ただ一人、最大の原因である沖田は飄々としている。



「里山で一番高い竹を取って来たは良いんですけど少しばかり長さを図り間違えまして、中庭に入れる際の方向転回でちょっと竹が副長室に突っ込んじゃっただけですよ」




昼の巡察を土方に代わってもらった沖田は里山の主から許可をもらい、里山で一番高いであろう竹を屯所まで運んだのだった。

そして中庭に運ぶにあたり、副長室の前でわざわざ横に竹を持ち変えて方向転回をした際、バキバキと障子等をなぎ倒す音を屯所中に響かせたため、幹部達を始め平隊士達にまで今回の事が知れ渡ったのだった。


故意か偶然か、何故沖田が副長室前で方向転回をしたのかは本人のみが知るところだ。



「ちょっとじゃねーだろ!部屋めちゃめちゃじゃねーか!!!どうしてくれるんだよ!!?」

「あはは、怒らないで下さいよ土方さん。恐いなぁ」


土方は鬼気迫る勢いで沖田の肩をガクガク揺さぶるも、当の沖田は笑顔で揺れに身を任せている。


いつもの様に始まった二人の喧騒に、井上は微笑ましげに「ふふっ…」と笑みを溢す。


「体や立場は大きく変わろうとも、こうしていると歳さんも総司もいつまでも子供のようだね」



『…子供?あの二人が?』


(今にも刀を抜くんじゃないかって、ヒヤヒヤもんなのにか?)

信じられないと言った表情の永倉等に、井上はコクリと頷く。


「あぁ。私は二人が幼い頃から知っているからね。兄弟みたいで、何とも微笑ましいねぇ」




井上の言葉に沖田は揺さぶられながら目を向ける。

「あはは、源さん。僕と土方さんが兄弟って―――…ゔぉええっ!!!!」

「おいっ!!?てめぇ何、吐こうとしてんだよ!!!」


喉に指を突っ込んで無理矢理吐こうとする沖田を土方は慌てて止める。


「だって源さんが変な事言うから――…ゔげぇえっ!!!…気持ち悪い……」

「人の袴で口を拭くんじゃねーよ!汚ねぇな!!!
俺と兄弟って言われるのがそんなに嫌か!!?」



かろうじて吐かなかったらしい沖田は肩で息をしながらコクリと頷く。


「土方さんと兄弟なんて、想像しただけで吐き気がしちゃいますしね」

「自ら吐こうとしてたじゃねーか!」


「まぁまぁ、部屋の件は仕方無いじゃないですか。僕もこうして酸っぱい思いをしたんですから、痛み分けって事で…」

「ふざけんな!てめえが勝手に酸っぱい思いをしただけじゃねーか!」

「それに七夕は局長命令なんですから近藤さんのため、強いては千鶴ちゃんのためなんですよ」




「…千鶴のためだぁ!!?」



土方が訝しげに眉を潜めると、近藤が広間に入って来た。





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