short story2

□としぞー
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※ドラマCDネタより




───それは、平助が千鶴の部屋を訪れようとしたときの出来事……。


千鶴の部屋の前にて───。

菓子を持った平助が襖越しに右往左往とウロウロとしていた。

「千鶴、この茶菓子好きだったよな…。よ、よし、練習だっ!ゴホン……。

(よ、よう、千鶴!巡察の帰りに茶菓子見に行ったら、多く買ってきちまって。そ、その…お前甘いもの好きだろ!?いっ、一緒に食おうぜっ!!……)

──って、たかが茶菓子を一緒に食うだけなのに何でこんなに緊張してんだよ、俺…!!
べっ、別に、やましい気持ちなんてないし…」

独り言を呟き、高く結われている長い髪をしっぽのようにぶんぶんと振るう。
些細な邪念を祓い、いざ部屋の中にいる千鶴に声をかけようと平助は顔を上げた。


その時────…。


「ち…」

「…と、歳三さん、ダメ…ダメです…」

「えっ…!!」

千鶴の凛とした声がいつもと比べると女性的で、甘く優しく可愛い声色。
その声にドキッとして平助は思わず素っ頓狂な声を洩らしてしまった。

「やっ…そんなところ、舐めたら…ヤです……きゃっ!」

「(なっ…!!)」

千鶴の口からは如何わしい事を連想させる台詞が出される。
その言葉に平助は耳まで真っ赤に染め、襖越しに体を固めてしまった。

「歳三さん……です……好き…です……大好き…です……」

「(え……ぇえーーーーっっ!!!)」

言葉にならない叫び声を心の中でおもいっきり上げた平助は、ショックのあまりいてもたってもいられずに千鶴の部屋の前から全速力で逃げてしまった。




…………




「────ってことなんだよ…」

集まっているいつもの面々に暗い顔をした平助が先程の出来事を話した。
そして千鶴の言葉を思い出し、平助は肩を落ち込ませ、ズーンと音が聞こえてくるほど意気消沈してしまった。


平助のその報告を聞いた一同の空気が一気に重いものへと変わった。


「へぇ〜、そうなんだ〜」

「千鶴と、土方さんがな…」

沖田は黒い笑みを浮かべ、腰に差している愛刀に触れる。
原田も面白くなさそうに不機嫌そうな態度を現す。
一見いつもと変わらない斎藤までも珍しく目を泳がせた。

「…と、屯所でその様な事をあの方がする筈がない!平助、あんたの聞き間違いではないのか?……そうだ、そうに決まっているっ!!」

「えっ、ちょっ!は、一くんっ!?離してくれって!!」

尊敬している土方がその様なことを───まして、自分が秘かに想っている千鶴にするなどと現実を認めたくないとばかりに斎藤は平助の肩を掴み、力強くガクガクっと揺さぶる。

「ちゃっ、ちゃんと!千鶴の口から“歳三さん”って…土方さんの名前を呼ぶのを聞いたんだよ!!」

嘘じゃねーよ!と目の前で狼狽している斎藤についムキになる。
だがすぐに自分の言った言葉にはっと気がつき、またも平助は落ち込む。
斎藤も平助の肩から手を離し、信じられないと呆然とする。

「…はぁ…」

「なぁ、左之。平助のやつ、何をあんなに落ちこんでんだ?」

「新八…お前、話聞いて無かったのか?普通今の話の流れで分かるだろう」

「……いや、さっぱり分からねぇ。だからお前に聞いてんじゃねーか!」

「はぁ…めんどくせぇ」

永倉の対応をするのが面倒な原田の隣に座る沖田がにっこりと笑顔を覗かせて永倉に向き直る。

「新八さんは分からないままのが新八さんらしいから、そのままで良いんですよ」

「だよな!って、あれ…なんだが俺、貶されてる気がすんだが……」

「明らかに総司のあの態度は貶してるな」

まだ余裕のある原田がクックッと喉で笑う。
斎藤は未だ信じられないと、いつになく語る。

「───仮に…仮にだが、もし、副長と雪村が…その…こ、恋仲という関係ならば、俺達は祝福せねばなるまい…」

斎藤の表情は分かりにくいが、いつもと比べると何故か暗い。
“恋仲”と聞き、原田はガシガシと自身の紅い髪を掻き上げる。

「…だな。千鶴が幸せならそれにこしたこたぁねえんだが…」

「千鶴の幸せ……か…」

「千鶴ちゃんの飯は美味いからな…」

『………』

「……僕は嫌だな」

皆が千鶴の幸せならば認めざるを得ないと語り合う。
そんな中、1人違う考えの永倉を冷めた目で見ていると、沖田がはっきりとした口調で【嫌】と主張した。
その言葉に皆の視線は一斉に沖田に向けられる。

『はっ!?』

「だから“嫌”って言ったんだけど。
だって、あの土方さんと千鶴ちゃんが、ですよ。
一回りも違うオジサンと可愛い可愛い千鶴ちゃんが、ですよ。
下手くそな俳句を詠っちゃう土方さんと何をしても愛くるしい千鶴ちゃんが、ですよ!」

“全く似合わないじゃないですか”と沖田は冷えた笑みを浮かべ皆を見返す。

「な、なぁ…総司の奴、なんだか怒ってねえか?」

「まぁ、色んな意味で可愛がってる千鶴を土方さんが先に手を出したから怒ってるのと、ただ単に土方さんを貶したいんだろうな」

「えっ!!…そうなのかっ!!」

原田の“千鶴に手を出した”と言う言葉に永倉が目を丸くする。
その横では我慢の限界なのか斎藤が沖田に鋭い視線を向けていた。

「総司、いい加減にしろ。人には色々な趣味がある。副長とて一生懸命考えられて書いているに決まっている」

「ええーー!?一くん、怒るとこ、そこっ!?」

斎藤に平助はついツッコミを入れてしまうが沖田と斎藤は気にせずに続ける。

「ふぅん〜。……なら一くんは良いの?千鶴ちゃんのこと、“好き”なんでしょ?」

「なっ!?……そ、そんなことは…」

沖田の“好き”と云う言葉に狼狽える斎藤は明らかに千鶴に好意を抱いている。
そんな事、初めからお見通しの沖田は更に斎藤を追い詰める。

「なら嫌いなんだ」

「そうは言っていない!断じて嫌いなど…あり得ぬ…」

「なら良いの?千鶴ちゃんが土方さんにあんなことやこんなことされて?あまつさえ、そーんなことまでされちゃうんだよ」

ぐっと端整な顔を歪ませる斎藤を煽るようにえげつない事を沖田は言う。

「僕は嫌だよ。土方さん似の子に“総司おじちゃん”なんて言われた日には土方さんを斬らなくっちゃならないよ」

「おいおい、話が随分進みすぎてねえか?」

「そっ!そうだよ!!幾ら土方さんでもそこまでは───」

「いや!わからねえぞ、平助。あの土方さんだから良いように言いくるめて嫌がる千鶴ちゃんをモノにしたのかもしれねえし」

『………』

永倉の言葉に皆が静かになる。
土方の容姿によろめかない女はそういない。千鶴とてまだ幼いが一応女子だ。
それに仕事も出来、鬼副長と云われていても部下の面倒見も良い。
女ならば近くで見ていたならば心動かない筈がない。

「……っ!!お、おれ!もう一回見てくる!!」

カッとなり勢いよく立ち上がった平助の腕を斎藤が掴んだ。突然の事に互いに目と目がぶつかる。

「待て、平助」

「と、止めないでくれよ!一くん!!」

「俺も行こう。やはり屯所でその様な行為は副長とて許しがたい」

「だから止め…えっ!?マジ!?」

「へぇ〜、一くんが行くだなんて、これは面白くなりそう」

「まぁ千鶴の危機だしな」

「おうよ!可愛い妹分が困ってるかもしれねえからな!」

皆それぞれ理由を述べて腰を上げる。そして互いにニッと口角を上げ、頷く。
それはそれは悪そうな笑みであった。





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