short story2
□可愛すぎて
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図書室にて────
「んっ…と、届かない──…」
千鶴は頭の上の本を取ろうと背伸びして頑張るがその努力も虚しく、欲している本には僅かに手が届かなかった。
「あ、あと少し…」
諦められない、と小さく声を洩らし、手が宙をさ迷う。
その時……
「…その本が読みたいのか」
背中越しに聞き慣れた声が耳に優しく問い掛けられ、自分とは異なる体温を直ぐ近くに感じる。
その聞き慣れた人物の心安らぐ大好きな香りがふわっと香り、思わず千鶴はドキッと身を固くした。
「……!!は、はい……」
千鶴の心中など知る由もなく、その人物は、今、自分が必死に手を伸ばしていた本をいとも簡単にスッと取る。
本棚から本が抜かれるのを見守りホッと息をつき、ゆっくりと体を反転させ本棚を背にし、その人物の方に向き直る。
「あ、ありがとうございます…斎藤さん…」
顔を見ずとも既にその人物が誰なのか分かり、直ぐに礼を述べる。
「礼を言われるほど大したことをした訳ではない」
落ち着いた声が頭の上に優しく降ってくる。
凛として、落ち着いた声。自分とは違う男性の声色。
でもそれはとても優しく、千鶴の胸の中にスッと入ってくる。
千鶴はゆっくりと頬に熱の集まった顔を上げ、目の前の端正な顔をした斎藤を見上げた。
斎藤はジッと千鶴を熱い眼差しで見つめ、彼女の顔の横にある本棚に両手をつき、逃がさない、と言わんばかりに彼女を閉じ込め────…
「千鶴…」
「斎と…ん……ふっ…」
突然甘く名を呼ばれたと思った途端、斎藤のそれが千鶴の柔らかい唇に重なった。
「んっ!!…あ……はっ……斎と…んんっ……」
先程よりも更に深い口づけが落とされ、千鶴は斎藤にされるがまま。
「ん……ん……っ」
千鶴の可愛らしい甘い声が図書室の一角に響く。
それだけで斎藤は彼女に対して愛しさが溢れる。
「…はぁ…ち、千…鶴…」
「…斎、藤さ…ん…」
ゆっくりと互いを離す。
顔が、体が、自分でも熱を帯びているのが痛い程分かり熱い。
未だ熱い眼差しを自分に向けてくる斎藤から恥ずかしいが目が離せない。
思考回路がボーッとした自分に再度斎藤が近づいてくるのが分かり、ハッと自分が今何をされたのか気が付いた千鶴は慌て始めた。
「…あっ…だ、だめ…です…」
斎藤からの急な口づけは戸惑うもののやはり嬉しい。
だが、その反面、違うことが頭を過る。
仮にも此処は学校の図書室。
今は辺りに人はいないが、もし誰かに見られでもしたら風紀委員としての斎藤の地位が危うい。
「さ、斎藤さん…!ここ、図書室ですよ!!」
「知っている」
「な、なら…いけません!こんな事…」
真っ赤になり、今さら唇を手で隠す。
その千鶴の動作に斎藤も自分が今何を彼女にしたのか赤くなる。
「…す、すまない…。千鶴が可愛すぎた故、自分が、抑えられなかった…」
「…っ!!」
“可愛い”と言う斎藤の言葉に千鶴は驚きから目を丸くしてポッと更に頬を赤くする。
斎藤も視線を泳がせ申し訳なさそうにする。
だが、熱い眼差しから今度は優しい眼差しに変わり、再度自分を見つめてくる斎藤から視線を逸らす。
「さ、斎藤…さん…!?」
普段照れ屋な彼からこんな嬉し恥ずかしい言葉をサラッと言われ、金魚の様に口をパクパクとする。
「あんたが、届かないものを必死に取ろうと頑張っている姿が…その、見ていて可愛く…つい…」
「…っ!!…は、恥ずかしいです…」
「…照れる姿も…あんたは愛らしい…千鶴……」
「あっ……」
照れて下を向いてしまった千鶴の顎を優しく上に向かせ、斎藤はまたも千鶴の顔に影を落とし────…
「…千鶴…好きだ…」
「……!!…わ…私も…斎藤さんが…す、好きです…大好きです……」
想いを伝え合いながら誰もいない図書室で2人は口づけを繰り返すのだった────…。
end
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