short story
□膝枕
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その日はいつになく暑かった…
斎藤一はいつものように黒い着物をきちんと着、首元には白い布を巻いていた。
京は江戸と比べると暑い…。
江戸とて涼しいわけではないが京と比べると幾分マシであった。
暑い中表情も服装も変えずに隊務に務めていた。
「一くん、今日も相変わらず暑そうだね」
扇子をパタパタと扇ぎながら沖田が暑そうに向かいから話し掛けて来た。
「あんたは変わらずだらしないな」
沖田の胸元は原田や永倉と比べると開いてはいないが着崩している。
「一くんや土方さんみたいに着ていたらバテちゃうよ」
ふーっと暑さにかなり参っている様子だ。
斎藤とて暑くないわけではない。顔からは汗をかいていないが背中からは汗が流れるのを感じていた。
「局長や副長を真似ろとは言わぬがもう少しちゃんとしろ」
「まるで母親みたいだね。まぁ、こんな無愛想な母親じゃ嫌だけど」
いつもの笑顔でさらっと嫌味をいう。暑いためかなり苛々しているらしく若干機嫌が悪い。
「あっちぃ〜」
丁度巡察から帰ってきた平助が隊服を脱ぎなからこちらに向かって来た。
「あれ、総司に一くん何やってんの?」
何やら機嫌が悪そうな二人の間に入ってしまった。
「巡察お疲れ様。別にただ暑いねって話していただけだよ」
「ふぅん」
「平助、何か用か?」
「あ、いや。ただ二人して何してんのかなぁと思って」
そうか、と斎藤は二人の横を通り過ぎた。沖田に絡まれると面倒だ。暑いだけで辛いのに更に機嫌が悪いと厄介だ。
◆◆◆
「副長、失礼します」
隊務の報告に土方の部屋を訪ねた。中に入り、変わらず忙しそうに文に目を通していた。
その後ろには男装をした少女が正座をし控えていた。斎藤に会釈をしはにかむ。
彼女も暑いのにきっちりと着物を着ていた。男装がバレてはまずいので着崩すわけにはいかない為だ。
「暑い中ご苦労だったな」
「いえ」
二人の話を聞いてはまずいと思い千鶴は席を外した。
◆◆◆
土方に報告を告げ終わり自室に向かおうと歩いていると前からは茶を持ってきた千鶴がいた。
「斎藤さん、お話は終わったんですか?」
ニッコリと微笑んでくれる千鶴にああ、と短い一言のみ。
千鶴の横を通りすぎようとした途端グラッと目眩がした。
「斎藤さん!?」
千鶴の心配する声が遠くから聞こえ視界が真っ暗になった。
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