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□担任は誰?
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ーーこれは雪村千鶴が入学する少し前に起きた出来事。
今まで男子校だった薄桜学園。
今年からは共学になり、初めての女子生徒を迎える。
しかし、問題が起きた。
紅一点!!
というただ1人の女子生徒しか入学してこないという前代未聞の事件が起きてしまったのだ。
有り得ない事が有り得てしまうのが、この薄桜学園。
紅一点の彼女とはーー。
藤堂平助の幼馴染みで、受験の時に出逢い、合格発表の時にまたも再会した。
純粋無垢で可憐、愛くるしい少女事、雪村千鶴ーー。
彼女が入学するということで職員室では、教師陣による、
『担任の座』を狙っての会議と云う口論が勃発していた。
「1年の担任は、教頭である俺じゃねえか」
職員室で当たり前のように煙草をふかし、不機嫌そうに眉間に皺を寄せている教頭兼古文教師の土方。
不機嫌なのは、先程からこの話しかしておらず、一向に解決しないからである。
「いやいや、普通教頭が担任もたねぇだろう」
スーツの上を脱ぎ、シャツの釦を二個以上外しチラッと肌を覗かせ、フェロモンを出している保健体育教師の原田。
「だよなっ!しかも教頭って普通、禿とかバーコードとかじゃね?なのにこんな若くてイケメンなんてあり得なくねえか?!」
緑のジャージに身を包み、頭にはタオルを巻き、片手には赤の鉛筆に競馬新聞を持つ、数学教師の永倉。
「喧嘩売ってるのか、新八?」
眉を吊り上げ不機嫌オーラを漂わせる。
「え゙っ?いや、売ってるんじゃなくてただの疑問だろう!
しかも褒めてるんだから良いじゃねえかっ!!」
土方に睨まれビクッと緑の体を固まらせる永倉。
「確かに、俺は教頭としては若えかもしれねぇが、ちゃんと責任ある仕事を全うしてるぜ」
「まぁまぁ、土方さん抑えて!話がズレちまう」
土方は他の学校で、若すぎる事、そして美しすぎる容姿についていつも嫌味を云われ飽き飽きしていた。
そんな土方を見てきた原田がなんとか落ち着かせる。
「で、どうするよ」
「やっぱりここは競馬で当たった奴が千鶴ちゃんの担任って云うのはどうだっ?」
ニッ、と嬉しそうに新聞を二人に見せる永倉。土方、原田は冷めた目でそんな永倉を見る。
「新八てめえまだ賭け事を学校でやってやがるのかっ!!」
「いてえっ!」
青筋を立て、永倉の手から新聞を奪いバシッと叩く土方。
「わざわざ見せなけれゃ良いのに…」
アホだなあ、と呆れながら、殴られている永倉を我関せずに原田は見守る。
「俺は、てめぇみたいのが教師なのが未だに信じられねえよ!」
「ふっ。俺は一応、学のある男だぜっ!」
キラーンと歯を輝かせグッジョブサインをする。全く懲りていないらしい。
そんな永倉を相手にするのが面倒になる。
「千鶴のやつ、女は自分一人なんて知ったらきっとビックリするだろうな。
そんな千鶴を優しく労ってやれるのは俺の役目じゃねえか?」
まだ少しの時間しか会っていないというのに既に『千鶴』と呼び捨てに名を言う原田。
「左之なんかが労ったら千鶴ちゃんが妊娠しちまう!」
「ある意味お前が一番危ねえからな」
「おい!どういう意味だよっ!」
本人は無意識に、無駄にフェロモンを出している。
原田は、土方に負けず生徒の母親にも人気があるのは言わなくてもわかるだろう。
「…やっぱり1年は俺がビシッと締めるのが筋じゃねえか?」
「締めるって…。1年から土方さんが担任じゃ生徒達が辞めちまう!」
「おい新八…それはどういう意味だ?!」
あっ、とギロッと永倉を見上げ再度新聞を握りしめる土方。
げっ、という顔をして後退る永倉。
「なら、土方さんは2年になる総司のところの担任のが良いんじゃねえか?」
「はあっ?何でそこで総司が出てくるんだよ?!」
嫌な汗が出てきて、必死な形相をする。
「いや、だって、あいつ頭は良いんだが、授業だっていつもやる気ねぇし、よくサボるだろ。
だったら土方さんが監視してた方がいいだろ?」
原田の発言に土方は心底嫌そうに顔を歪める。
「原田、お前は俺を過労死させるつもりか。あんな奴の担任なんか御免だ!」
「あんなに仲良いじゃねえか」
「新八、てめぇの目は節穴かっ!?総司の担任なんて死んでもやるかっ!」
「……そこまで嫌がらなくても良いじゃねぇか」
大人気ねえなぁ、と心の中で唱える原田。
「だーー!じゃあ、どうすんだよ!」
「だから俺がっ!」
「いや俺がっ!」
「俺だろっ!」
…醜い男の争いである。
彼等とて教師である前に1人の男。
男を相手にするよりも愛らしい少女を相手にしたいのが本音である。
ーーガラガラ。
言い争いをしていると職員室のドアが開いた。
「おお、歳に原田くんに永倉くんも一緒に居たか。何やら楽しそうだな!」
にっこりと上機嫌な学園長の近藤。その後ろには白衣に身を包んだ保険医の山南が一緒に入って来た。
「皆さんで何の相談ですか?」
眼鏡を輝かせながら優しい口調に微笑み。保険医にしては妖しく光輝く眼鏡。
「聞いてくれよ、近藤さん!
千鶴ちゃんの1年の担任をするのは俺が良いと思わねえか!?」
「新八、抜け駆けはずりいぞ!
近藤さん!新八じゃ、女心が分からねえから俺のが千鶴の担任に向いてると思うぜ」
「新八、原田…。…ったく。
近藤さん、俺はあんたに任せる。但し、総司の担任だけは止めてくれ!」
瞳を輝かせて詰め寄ってくる永倉に原田。
土方は、沖田の担任でなければもうどーでも良いと半ば諦めている。
「うーむ…そうだなぁ…」
そんな3人を見て悩む近藤。
急に何かを閃いたかの様にポンッと手を叩く。
◆◆◆
新入学生の教室。
千鶴は席に着き、男だらけの環境に緊張していた。
(はぁ…。私のクラスは、私しか女の子がいないんだ…。
女の子の友達欲しかったなあ…)
などと若干呑気に考えながら担任が来るのを待っていた。
ーーガラガラ。
扉が開き、皆、そちらに注目する。
「すまん、すまん!遅くなってしまった」
千鶴は大きな瞳をパチパチと瞬きさせ、声の主を、驚きのあまり見つめた。
それは先ほどの入学式で挨拶をしていた学園長の近藤であった。
「このクラスの担任の近藤勇だ。学園長もやっているが1年間宜しく頼む!」
生徒からは歓声が上がる。
挨拶の時の言葉により、男子達は近藤に憧れを抱いたのだ。
まさか学園長自らがクラスを持つなんて。
(…学園長先生って担任も持つんだ。凄いなぁ)
呆然と近藤を見つめる千鶴。
クラスから歓迎の拍手をされ照れる近藤。
そんな拍手の音が職員室まで響いてきた。
土方、原田、永倉の3人はまるで屍の如く、自分の机にぼーっと座っていた。
「土方さんよぉ…」
「…あっ?」
「何で、近藤さんが担任なんだよ!」
「仕方ねえだろう!決まっちまったもんは!」
「はあー。普通学園長が担任持つなんて前代未聞だろう…」
「あの人は言ったら聞かねぇんだよ」
ガシガシと荒い手つきで髪をかく土方。
「まさか、『あみだクジ』で決めようなんて言うとは、俺だって思わなかったんだよ」
「しかもちゃっかり自分の名前も書いてるなんてな…」
はあーっと溜め息を吐く男3人であった。
end
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