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□温泉へ行こう!
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『温泉へ行こう』@


久々に新選組屯所に現れた千姫が瞳を輝かせ誘いの言葉を千鶴に向かって発した。

「――千鶴ちゃん、温泉行かない?」

千鶴はキョトンと千姫の言葉に目をパチパチと瞬きをした。

「…温泉?」

先程まで雑用をしていた千鶴の手には未だに箒が残っている。

「そう!私の知り合いがやってる所なんだけど、どうかしら?」

「……行きたいけど…ごめんね、私の一存では何とも…」

本当にごめんね、と眉をハの字にして千姫に謝罪する。

「そうよね…。う〜ん……んっ!!ねえ、千鶴ちゃん!!土方さんにお話して承諾を得れば千鶴ちゃんは一緒に行ってくれるかしら?」

ピカッと思いつき、目を輝かせてすごい勢いで千鶴の手を掴み自分の手に重ねる。

「う、うん。私、お千ちゃんともっとお話したいもん」

エヘッと少し恥ずかしそうにはにかむ千鶴に千姫はその可愛さにクラッとし、
『絶対に土方さんから許しを貰ってやる!!』と握り拳を作り、一人燃え上がった。




◆◆◆


土方の部屋にて――。


千姫と土方は静かに火花を散らし睨み合いの真っ只中であった。

千鶴の外泊について、『駄目だ』の一点張りの土方の強い意見に若干千姫が苦戦し、押され気味でいた。

そんな二人の火花を目の当たりにし千鶴はオロオロと申し訳なさそうに二人の話し合いを聞いていた。


そこへ突然――。
…スパーン、と襖が勢い良く開け放たれた――。

そちらを土方達は吃驚した顔で見ると……、ぞろぞろと部屋に入ってくる輩がいた。

「土方さん、失礼しまーす」

「なっ!?て、てめえら!!」

「み、皆さん――!?」

どこから聞き付けてきたのか、沖田を筆頭にいつもの幹部達が土方の部屋にドカドカと勝手に座り、口を挟んできた。

「…副長、申し訳ありません…失礼します」

「よっ、土方さん。邪魔するぜ」

「話は聞かせてもらったぜ、土方さんよ!」

「土方さん!たまには良いじゃん!温泉行こうぜ!!」

土方の部屋は全員が入ったため、一気に騒がしくなり狭くなった。

勝手に部屋に押し入れられ、はぁ、と溜め息をつき眉間に皺を寄せる。

「てめえら、一体どこから聞いてやがった」

「どこからって、最初からに決まってるじゃないですか。気が付かなかったんですか?」

『土方さんともあろう人が』とニヤニヤと意地の悪い笑みを土方に向ける。沖田の笑みを見て、ちっと舌打ちして斎藤に視線を向ける。

「おい斎藤、お前が付いておきながら――」

「まあまあ土方さん、細かいことは気にすんなよ。あんまり眉間に皺寄せると色男が台無しだぜ」

申し訳ありません、と静かに頭を垂れる斎藤に土方は問い掛けるが、直ぐに原田の宥める声が入った。

「ったく…油断も好きもねえな…」

不機嫌そうに腕を組み呟いた。



「…しっかし温泉かぁ〜。たまにはゆっくり月を眺めながら風流に酒を呑んで日頃の疲れを癒して入りてえよなぁ」

「おっ新八、たまには良いこと言うじゃねえか」

お猪口を持つ仕草をする二人は既に酒を呑むことしか考えていない。

「左之さんと新八っつぁんはいっつも呑んでんじゃんっ!」

「平助、お子さまは黙ってろい!斎藤も一杯やりてぇよな?なっ!」

「何故俺にふる…」

バンバンと背中を叩かれ、永倉の突然の振りを訝しげに思う。

「あれ?一くんは千鶴ちゃんの裸、見たくないの?」

「…………」

……一瞬皆の時が止まった……。否、固まった。

「僕は見たいか見たくないかと聞かれたら、見たいな」

「「「「「!?」」」」」

ニコッと輝く笑みを千鶴に向ける。一瞬何を言われているのか理解できず、遅れてからポンッと千鶴の顔を朱色に染めた。

「「なっ!?」」

「「!?」」

「そ、総司!?な、なんで千鶴のは、はだ……出てくんだよっ!!」

沖田の爆弾発言に平助も真っ赤になりながら慌てて食って掛かる。
しかし、恥ずかしさからか「裸」という台詞がどもって言えなかった。

「そりゃ、温泉と言ったら混浴でしょ♪」

「「えぇーーっ!!」」

「千鶴、平助、落ち着け!って、うおっ、新八お前鼻血出てんぞっ!?」

「やべ…想像しちまった…」

「ち、ちち千鶴のは、はだ…か…千鶴…のはだ、か…」

「さ、斎藤っ?!おい、しっかりしろ!!斎藤っ!!」

千鶴と平助は真っ赤になり二人してオロオロとし、新八は鼻血を垂らしニヤニヤと笑みを浮かべ、斎藤は顔を赤くしブツブツと独りの世界へ行ってしまった。
原田はそんな皆を落ち着かせようと必死になっていた。

「総司!てめえ、何抜かしやがる!!」

「えー。それぐらいサービスしてくれても良いじゃないですか」

怒りながら抗議してくる土方を面倒くさそうに相手する。

「良いわけあるかっ!!見てみろ!千鶴が固まっちまっただろうがっ!!」

千鶴をチラッと見ると真っ赤だった顔から血の気が失せ青くなっていた。
コロコロと表情が変わっていく様を楽しそうに見ながら、クスッと笑みを洩らした。

「ふ〜ん♪じゃっ!
そういうことなので、僕近藤さんに承諾得てきますね♪」

何がそういうことなのかスッと立ち上がり足早に部屋から出る。
その様子に土方も顔色を変え追いかけるように立ち上がる。

「おっ、おい!総司!!待ちやがれー!!」

「あはは、嫌ですよ〜」


陽気に走っていく沖田を必死の形相で追い掛ける土方の声が屯所中に響いたのは云うまでもない………。


千姫は一人、新選組幹部の様子にただ呆れ、固まってしまった千鶴を宥めながら心の中で想った。

(あの人だけは絶対に敵にしたくないわ…)




◆◆◆


……その後。


土方の懸命な願いは聞き入れられず、人の良い近藤は沖田の策にまんまと乗せられてしまい承諾をしてしまった。


だが1つ条件として、幹部が遠出してしまって、もし京で何か起きてしまったら危険という事で『近場の宿』でならと云うことになった。


千姫も近藤の決めたことに素直に頷き、事は丸く収まった。


…………


そんな中、妖しい人影が新選組屯所内の会話を聴いていた。


「………ほぅ」


ニヤッと口角を上げ、楽しそうに切れ長の紅い瞳を細める。


新選組の皆は男の存在に気がつかず、男は楽しいことが始まると言わんばかりに笑みを浮かべたまま、スッと音もなく姿を消した。





To be continued


2010/12/01up
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