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□温泉へ行こう!
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『温泉へ行こう』A


その後―――…
幹部一行は、途中までの道中何があったのか言えないが騒がしくもなんとか無事宿に到着した。


土方は宿の主人に話をつけ、

『てめえら、人様に迷惑かけんじゃねえぞ!!』

と幹部らに釘を指す一言を告げると借りた部屋に一人仕事をする為行ってしまった。

皆からは【こんな時くらい仕事をしないで羽目を外せ】と言われたが、副長としてやる事があると頑なに拒否をした。

千鶴も申し訳ないと土方の後ろを付いて行ってしまった。




◆◆◆


残された
男性人の脱衣場――…。


「ふん!どうだ、平助!俺の筋肉は!!」

永倉は腰に手ぬぐいを巻き、上半身裸で自分の肉体美を平助に見せつけていた。

「あー…、新八っつぁんの筋肉、正直見飽きた」

「なっ、何をっ!?この俺の筋肉を見飽きただとっ!!」

「だって屯所の風呂で会ったときだって、見たくもねえのに必ず見せてくんじゃんっ!」

確かに凄い筋肉だが何が悲しくて男の肉体を見せられなきゃならんのかと飽き飽きしていた。

平助と永倉のやり取りを隣で見ていた原田が服を脱ぎながらいつまでも退かない永倉をガッ、と蹴っ飛ばした。

「――ぐおっ!さ、左之、てめえ!!いきなり何しやがるっ!?」

「新八、脱いだんなら早くどけよ」

「だからって後ろからいきなり蹴ることねえじゃねえか!!」

「いつまでもでけぇ体でそんな所にいられたら邪魔なんだよ。早く入りにいきやがれ」

「ったく、覚えとけよっ!」

「へいへい」

ヒラヒラと手で追い払われ、捨て台詞を原田に吐き捨て、ガラッと戸を開け露天風呂へ一足先に脚を運んだ。

やれやれと苦笑いしながら見ていた平助は、ふと目にとまった斎藤を見ると、既にいつもの黒い着物を脱ぎ、準備を済ませていた。


そして平助の動きがピタッと止まった……。


不安な顔で斎藤の左手を指差す。その先には斎藤の愛刀が見えた。
嫌な予感が一気にする――…。

「……は、一くん…、なんで…刀持って行こうとしてんの?」

平助に問いかけられた斎藤は、それに応えるように淡々と言葉を発す。

「副長からの“命”だ。もし、あんた達が煩くし周りに迷惑を掛けた際は……」

真面目な顔でスッと鞘から刀を抜こうとする。その様子に平助と原田はぎょっと目を見開き慌てる。

「ちょっ!!は、一くん!?」

「さ、斎藤!落ち着け!!まだ俺たち何もやってないだろ!?」

「………」

そうだな、と小さく洩らし、カチンと刀を納める。それを見て平助と原田はひと安心し、ふーっと息を吐いた。
それを見ていた沖田が

「…刀、錆びるよ…」

と呆れながら呟いた。




◆◆◆


その頃、土方の部屋―――…。


千鶴と共に千姫も同行していた。しかし室内は静かでだんだんと飽きてきてしまっていた。

千鶴は土方の湯のみに茶を淹れ、邪魔にならない場所にそっと置いた。
それを一口含み――…

「……千鶴、お前らも風呂、入ってこい」

「えっ、でも…」

「俺の事は気にするな。お前は風呂、入りに此処まで来たんだろう」

千鶴の顔も見ず黙々と仕事をこなす。千鶴は土方の後ろ姿をしばし見つめた。
そして少し悩んだ末、申し訳なさそうに仕事をしている土方の背中にペコリとお辞儀をした。

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて…」

「おう、行ってこい」

土方の不器用だけど優しい心遣いに胸を暖め、静かにもう一度礼をし千姫と千鶴は部屋を退出した。




◆◆◆


その頃の男たちは――……


「ちょっ、新八っつぁんっ!だからお湯かけてくんなって!!」

「がははは!!平助、見てるか!この永倉新八さまの華麗な泳ぎを!!」

――バシャ、バシャッと湯を豪快に飛ばし、風呂の中を楽しそうに泳いでいた。

「新八!てめえ、俺の酒の中に湯が入っちまったじゃねえかっ!!」

徳利とお猪口を持ちながら一人酒を味わい湯に浸かっていた原田が永倉の行為に怒声を飛ばす。

「はあ〜極楽極楽♪」

「…………」

先程から煩い3人を気にも止めず、ゆったりと露天風呂を満喫している沖田に斎藤。
しかし斎藤は眉を寄せ、キッと3人を睨んだ。

「げっ!一くんが怒ってるっ!!」

「おい、新八。マジで止めろって!斎藤に斬られっぞ」

「んな、まさ……!?さ、斎藤…そんなおっかねえ顔で睨んでくんなよ」

永倉は笑顔から一気に顔色を悪くし、後ずさる。
斎藤の後ろに般若みたいな幻がこちらを恐ろしい形相で見ている。

「……ならもう少し静かに入れ」

お、おう、と少し上擦った声で応えると幻が消えた。


やっと静かになったとき、平助が口を少し尖らせ沈んだ声を出した。

「それにしても、広くて良いんだけどさ…なーんかなぁ…」

「なーにふて腐れてんだよ、平助」

「べ、べつに…」

ばつが悪そうに顔を背ける。平助の態度に沖田は、ふーんと笑みを浮かべ、目を三日月にする。

「もしかして平助くん、千鶴ちゃんと一緒に入れるって考えてた?」

「何っ!?」

「なっ!?そ、そんなこと考えるわけねーだろ!!」

「あはは。凄い慌てよう。――にしては何か元気、ないね」

沖田は真っ赤になって反論してくる平助を余裕の笑みを向け楽しそうにおちょくる。

「そうなのか!?平助!!」

「まっ、平助も一応男だからな」

興奮して近づいてくる永倉とは対照的に原田は余裕の笑みを見せる。その二人の態度に更にムキになってしまう。

「だ、だからっ!!ちげーって言ってだろっ!!」

「照れんな照れんな」

「ちょっ、撫でんなよ、新八っつぁん!!――お、俺は!!ち…千鶴の喜んでる顔が見たかっただけっ!!ただそれだけ!!」

皆にからかわれ、本音をついぽろりと言ってしまった。

「千鶴ちゃんならさっき喜んでたじゃない」

「で、でも、すぐ土方さんにくっついて行っちまったし…」

「だから拗ねてんのか」

「べ、別に拗ねてなんかねーよ!!…ただ、これじゃ…まるで俺たちが遊びに来たみたいだと思って…。本当はあいつが来たがってたのに」

ムキになっていた様子から一転、平助は深刻な顔で宿に着いた時の千鶴の嬉しそうな顔を思い出す。
今まで静かに話を聞いていた斎藤が瞳を開け、平助に相槌をうった。

「確かに平助の云うことは一理ある。副長もわざわざ足を運んで下さったのに自分達のみがのんびりと湯に浸かるなど…」

「一くん、別に土方さんの事は気にしなくて良いと思うよ。あの人仕事の鬼なだけだし」

「まあ、土方さんの事はちと置いといて、千鶴の事は確かに平助の言う通りだな。あいつももう少し、気を楽にすりゃいいのにな」

「千鶴ちゃんは真面目だからな!」


皆、顔を見合せ、千鶴の事を想う。次第に頬が緩んでくる。


――どんな疲れた時も嫌な事があった時も千鶴の笑顔を見ると忘れてしまう。

千鶴の嬉しそうな笑顔を見たいのは皆も同じだ。

今回の件も元はと云えば、千鶴の為に来たのだ――。

だが、いつの間にか楽しいことが大好きな自分たちのが楽しんでしまったことに反省する。


皆、千鶴に弱いのだ。


そろそろ出るか、と上がろうとした時――…


カラカラ――…
っと塀越しに音が聞こえた。

んっ、と耳を傾けると

千姫の嬉しそうにはしゃぐ声が男子風呂に聴こえてきた。

「千鶴ちゃん!早く早く!!」

「「「「「!?」」」」」

その声に一斉に見える筈もないのにそちらを勢いよく見上げた。

「お、お千ちゃん、引っ張ったら危ないよ〜」

聞き覚えのある可愛らしい声がこだまする。
それは先程まで考えていた彼らの“愛しい少女”の声。

「ちっ!?」

「千鶴…」

「千鶴ちゃんだ…と…」

「な、何故…」

「へぇ〜」


照れるもの、驚くもの、狼狽するもの、各々何とも云えぬ表情をしていた。


しかしそんな中、沖田のみが妖しい笑みを浮かべた――…。





To be continued


2010/12/09up
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