†++DIVINE++†

□++君が笑う++
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 最初に会った時のことを、憶えているだろうか。

 雨の降る、夜の人混みの中で聴こえた、あの旋律を、憶えているだろうか。

 無音の中で、聴こえた、硝子質の音。

 他には何も要らない。

 それは今でも変わらないのに、その一つの望みが、どんどん深くなっていく。

 こんなにも自分は欲深かったのかと、北十は自らを嗤った。


 今年の春、沙薙夜が無事大学に入学した。
 一足先に北十が入ったこの大学は、数千の学生と、各種の学部を抱えるマンモス校である。

 沙薙夜は受験にあたって、理学部を選んだ。理由は手に取るように解る。自分のことを調べてみたいと云う欲求に、勝てなかったのだろう。

 理学部には生命理学科があり、遺伝学を学ぶこともできる。

 理学部は北十の通う法学部とは最も離れた場所に教室棟が在り、敷地すら違う。

 法学部は文学部などともに渋谷区内の中央キャンパスに在るが、理学部は医学部や工学部などと共に八王子キャンパスに在る。
 一、ニ回生の間の一般教養では中央キャンパスでのみ、もしくは八王子キャンパスでのみの授業もあるが、それ以外は全く重なるものが無い。

 一緒に登校するようなことは、稀と云っても過言では無かった。

 北十の住むマンションは中央線の沿線に在る。
 沙薙夜の家は丸の内線沿線に在る。どちらにしても八王子は遠い。
 必然的に、沙薙夜の方が家を出る時間が早くなる。
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