++++ワンダーフォーゲル++++ †++PARADAISE OVER ANNEX++†
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亮介から電話があったのは、共に友人宅を辞した其の晩のことだった。
珈琲を飲みながら、自室で捌いても捌いても堪ってゆく書類群に目を通していると、唐突に携帯電話の電子音が響いた。
向かいのデスクでキーボードを叩いている高弘が、ゆっくりと顔をあげる。
ディスプレイには今まで掛かって来たことの無い名前が表示されていた。
眉を顰めながら受話ボタンを押す。
携帯電話特有の雑音に紛れて、先刻まで間近に聴いていた声が、彼女の名を呼んだ。
「――亮介?」
『……あのさ、今平気?』
不安気で遠慮がちな喋り方が彼にしては珍しく、ふと胸がざわついた。
「ああ、少しなら――どうした」
答えは簡潔だった。感情を懸命に押さえているのだろう。
僅かに上擦っている。
『至季が攫われた』
「至季が?」
『保が妙な生き物を見たって騒いでた。おれは、』一呼吸措いて彼は続けた。『おれは、彼方の世界のヤツらの仕業だと思う――』
厭な予感がした。至季が攫われ、彼方の世界の住人が犯人だと云う。
一度なりとも彼等と闘った亮介が、其れで黙っている筈が無かった。
固より自分に掛けてくると云うなら、理由はひとつだろう。
彼はあっさりと其の懸念を口にした。
『おれ、至季を救けたいんだ――おれ独りで「彼方」に行くにはどうしたらいい?』
彼女は軽い眩暈を覚えながら、空を仰いだ。
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