++++ワンダーフォーゲル++++ †++PARADAISE OVER ANNEX++†

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 廊下は薄暗かった。
 其処彼処に硝子灯が点っているものの、通路の両側に部屋が立ち並ぶ壁には窓等ある筈も無く、圧倒的に光量が足らなかった。
 亮介は今出てきた部屋から離れるわけにもいかず、扉を閉めたまま其処に座り込んでいた。
 ついさっき飲んだばかりの液体が――酒だったらしいことには後で気がついた――胃の中で燃えている。
「此処で何をしているの」
 唐突に響いた高い声に、ぎょっとして振り返った。
「此処で、何をしているの」
 長い髪の女が亮介を見下ろしている。
 薄暗くて、顔がよく見えない。
 白っぽい着物がぼんやりと光っていた。
「な、なにって……」
 女はしゃがみ込んで、亮介に顔を近付けた。
 僅かな光に浮かぶその顔は、氷のように澄んで、美しかった。
「人間の匂いがするわ――ねえ、こんな処にいては駄目よ。此処はグールの巣なんだから」
 亮介は彼女の薄い色の眸から、目が離せなくなった。
 感情の薄いそれが亮介を見据える。
「グ、グール?」
「――食人種よ。わからないかしら。人を食べるのよ」
 何を云われているのか、判らなかった。
 人、人を食う?
「――え?」
 眉を顰めて、女は息を吐いた。
「鈍いわね。こんな処にいては、貴方が食べられてしまうかもしれないと云ってるのよ。連中には貴方くらいの歳の子供なんて、いい御馳走だわ」
 云うが早いか、女は立ち上がり、踵を返した。
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