++++ワンダーフォーゲル++++ †++PARADAISE OVER ANNEX++†

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 力をこめた腕の中で、羅城は抵抗を見せなかった。
 次第に緩んでゆく身体を、氷菜の細腕では支えきれずに床に落とした。
 鈍い音がして、ぐったりと横たわる。氷菜もそのまま崩れ落ち、へたりこんだ。
「……っ!」
 咳込みながら肩を震わす羅城を見下ろす。
 今は紅いその髪は、昔は眩しいくらいの雪白だった。
 紫水晶の眸も、元は柘榴色だった。
 変わらないのはその貌と、片耳に光る遊蛋石のその色だけ。
 ずっと忘れることなんて無かった。
 春遙と夏流に触れる度に憶い出した。
 真っ白な雪の中、倒れる雪華と拡がる朱、胸を引き裂かれるような、春陽の悲鳴。
 小さな頃から一緒で、誰よりも近くにいた大事な友人。
 それを奪った憎んでも憎みきれない相手なのに、死に際の全てを諦めきったような表情を今でも夢に見る。
「――どうして最後まで抵抗しなかったの」
 僅かに羅城は肩を揺らす。口を開きかけて、また激しく咳込んだ。
「――どうして、雪華が死んでも、抵抗しようとしなかったの」
 まだ子供達がいたのに、春陽はそのまま、自分たちに囚われた。
 仮令ひとりでも、闇御と呼ばれた力なら雪化の力などねじ臥せられたろうに、なぜそうしなかったのか。
「――春陽に、は」一言発する度に、その倍咳込む。「雪華だけが、全てだったんだ――」
「それなら尚のこと――」
 子供達と一緒に生きようとは思わなかったのか。
 雪華の子。
 春陽の子。
 それを忘れるほど。
「おまえは――」声が上擦るのが自分でも判る。「お前は子供達を捨てたのね……?」
 小さな手が、自分の手を握ったあの時の感覚を、ずっと忘れられないのに。
 憎まなくてはならない筈なのに、生きていても最下層の扱いしか受けられない子供達なのに、どうしても手放せなかった。
 自分が護るのだと思った。
 だから、敵の城にまで住んで、彼らの傍を離れないのだ。
 それなのに、春陽は雪華しか要らないなんて云う。
 どうして。
「氷菜――」
「どうしてあなたは、それでも生きてくれなかったの……!」
 氷菜は、自分の言葉に絶句した。
 
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